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第11話

それは、救われた夜だった。少なくとも、そう見えた。悠は、手を離さない選択をした。 重くない、逃げられないほどでもない。 でも、確かに執着はあった。 心に触れようとした。あの悠が踏み込みかけた。 その事実が、胸の奥で静かに鳴る。 悠は、馬鹿じゃない。もう全てに気付いている。 けれど、悠も僕も、何も言わない。 沈黙が、壊れない。徹底された沈黙。それが、悠の誠実さ。 でも、その誠実さの中で、僕は、違うことを考えている。 ——今、揺れた。あの、悠が、確かに。 それだけで、胸が熱くなる。 静かに抱かれただけだ。情動というには、あまりにも品のあるセックス。言葉で縋られたわけでもない。 でも、触れた。現実の男が、一線を越えかけた。それを、僕は感じ取ってしまった。 その瞬間、全てが確定する。 ——成功だ。 思ってしまった。見せた、動かした、選ばせた。 その三つが、頭の中で重なる。けれど、罪悪感は、すぐに追いかけてくる。 最低だ。こんなふうに感じるなんて。でも、消えない。成功感の方が圧倒的だった。 それが、何より恐ろしい。悠は、この瞬間を愛だと思っている。守ろうとしている。 壊さないために触れた。それが、分かる。分かるからこそ、胸が痛い。でも、僕は、違うところを見てしまった。 悠が、揺れ、理性が、一瞬、遅れた。それが、 嬉しい。こんな自分を、嫌いになれない。 手を離さない。でも、掴まない。それが、悠の限界。 天井を見つめながら、僕は思う。 ——もっと、欲しい。 ——もっと、揺らしたい。 ——もっと、縋られたい。 それは、飢えだった。溺愛されたい。思い切り口説かれてみたい。この人の世界をぐらつかせたい。 そんな欲求が、はっきりと形になる。 悠は、眠りに落ちている。規則正しい呼吸。 安心している。それが、また、胸を締めつける。 ——このままでは、足りない。 そう、はっきり思ってしまう。足りないと思った時点で、後戻りはできない。 秋頼の顔が浮かぶ。あの、揺れを否定しない視線。 欲しがらせない代わりに、拒まない距離。当て付ける必要のない相手。その存在が、次に進む方向を示している。 悠の背中に目をやる。ここに、留まる道もある。 でも、ここは、中間地点。至りたい場所じゃない。 それを、もう、理解してしまった。その夜、僕は、確かに救われた。でも同時に、確信してしまった。この愛では、もう、満たされない。 それが、この夜を成功だと認識してしまった理由だった。

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