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第12話

それは、意識して決めたことじゃない。選んだつもりも、分けたつもりも、なかった。ただ、気づいたら、そうなっていた。 朝、目を覚ます。悠は先に起きていた。キッチンから、湯の沸く音がする。 「おはよう」 「おはよう」 穏やかで、平らかで、いつも通り。 「今日は、遅くなる」 「分かった」 それだけで、会話は終わる。淋しさがないわけじゃない。でも、予測できる。耐えられる淋しさ。それが、ここにある。 昼過ぎ、秋頼から連絡が来る。 「今日は、少し冷える」 天気予報と同じ内容。 でも、それだけじゃない。気にしているという事実。それが、文面に滲んでいる。 「ありがとうございます」 短く返す。それだけで、胸の奥が緩む。あたたかい。 悠は、生活を与えてくれる。日々を、崩れない形で続けてくれる。 でも、秋頼は、揺れを受け止めてくれる。不安定なまま、存在することを許してくれる。否定されない場所。それが、決定的に違う。 夕方、帰宅した悠は、珍しく僕の顔をじっと見た。 「……疲れてる?」 「そう?」 「目が」 それ以上、言わない。察している。でも、踏み込まない。 「大丈夫だよ」 そう言うと、悠は頷く。確認して、引く。それが、悠の愛し方。 悠に髪を撫でられる。気持ちがいい…そのまま唇にやわらかいキスが落ちる。 「ごめん…まだ、仕事残ってる。先、寝室行ってて」 「うん…」 夜、一人でベッドに横になる。 この時間が以前は淋しかったのに、今は違う。 淋しさの行き先を、知ってしまった。 スマートフォンを手に取る。秋頼の名前が 浮かぶ。 ……送らない。まだ、送らない。 送らなくても、繋がっているそんな感覚。それが、もうある。悠が布団に入ってくる。 「ごめん…待たせた」 「ううん、大丈夫、少しデザイン考えてた」 「前言ってた、催事の?」 「うん」 また、確認だけされる。けれど、話を覚えていてくれている。悠は、ここにいる。現実として。 こんなとき、秋頼ならどうするのだろう。 思い浮かべる。想像する。もう、それが当たり前になっている。 きっと、彼は、あまり話さない。それでも、自分は語り、感情を預けてしまうだろう。揺れを、解決しようとしない。それが、救いになる。 きっと、僕は。 ——悠には、安定を求めている。 ——秋頼には、揺れを預けている。 役割が、分かれている。それを、口にしたら壊れる。 だから、口にしない。罪悪感はある。悠は、何も間違っていない。 正しくて、優しくて、手を離さない。でも、正しさは、僕を満たさない。 その事実を、知ってしまった。 夜、悠の背中を見ながら思う。この人は、僕を生きさせてくれる。 でも、生きている実感は、別のところで感じてしまう。その分離が、もう、戻らない。 ——選んでいない。 ——でも、分けてしまった。 そして、自分は正しさだけでは足りず、温度を求めてしまった。 きっと、これは危険だ。それを、理解しながら、僕は、目を閉じた。

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