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第14話
空気が張りつめている。
「……今日は、雨じゃなくてよかったですね」
絢聖が、場を整えようとしている。整えなくていい空気だと、二人とも分かっているのに。
ソファーに座る。カップを差し出す。手が、一瞬、触れそうになる。触れない。それを意識している時点で、もう、遅い。
「……今日は」
絢聖が言いかけて止める。私が、待つ。促さない。
「……来て、よかったです」
それだけで、十分だった。胸の奥で、何かが決壊する。私は、奪っている。息子の恋人を。そして、彼の逃げ場を。
言葉を選ぶべきだった。距離を取るべきだった。
だが、私は、言ってしまう。
「……私がそうさせている」
声が、低く、静かに。絢聖が、顔を上げる。
「……え?」
「君が、ここで楽になるのは」
一拍。
「私が、受け止めているからだ」
告白ではない。事実の提示。絢聖の喉が、小さく動く。
「……それ、悪いことですか?」
真っ直ぐな問い。責めも、逃げも含まない。逃げ場を与えられた人間の目。私は、答えられない。
だが、その行為を「欲」と呼ばずに何と呼ぶ。目を閉じる。考える。
「……君が楽になるなら」
言葉が、口から零れる。
「私は、悪者でいい」
その瞬間、すべてを引き受けると決めてしまった。
絢聖は、何も言わない。ただ、少しだけ息を吐く。安堵に近い音。それが、決定打。
私は、理解する。
——これは、もう、線を越えている
それを、自覚する。彼を独りにしたくない。そう思ったときから、戻れる場所は、もう、一つしか残っていなかった。
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