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第18話

鍵の音が、思ったより大きく響く。 「……ただいま」 声は低く、控えめ。リビングの灯りはついている。悠は起きていた。 ソファに座ったまま、スマホを見ている。寝ていない。きっと、待っていた。 「おかえり」 声は静か。怒ってもいない。責めてもいない。それが、胸に刺さる。 「……ごめん。遅くなって」 言い訳は用意していた。でも、出てこない。理由を言えば、嘘になる。 悠は、立ち上がらない。近づかない。ただ、視線だけが絢聖を追う。距離を詰めないという選択。 「……大丈夫?だいぶ酔ってたって父さんから聞いたけど?」 すでに言い訳は用意されていた。秋頼に、悠に嘘を吐けないだろうことを見抜かれていた。 「……」 無言で頷く。 「なら、よかった」 悠は一瞬だけ視線を逸らす。その一瞬で、絢聖は知る。 ――あ、気づいてる。 「……シャワー、先に使う?」 いつもの言葉。日常に戻そうとしている。 「うん。ありがとう」 そう言って、絢聖は廊下を歩く。背中に視線だけを感じ続ける。何も言えない悠の優しさが伝わってくる。 浴室のドアが閉まる。 その音が、拒絶に聞こえる。 今の、絢聖は…きっと嘘を吐けない。 問いただせば全てが失われる。穏やかさを選ぶ。それが、悠の生き方だった。

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