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第6話

 案の定、今晩はヤりたいらしい。本当に出ていかれると困るから焦っているのかも。「準備してきて」と普段通りの態度で言われた時には思わず笑いそうになってしまった。  しかし、風呂上がりの脱衣所には、用意されているはずの衣装も、エロ系の下着もない。俺は不思議に思いながら、全裸の上にバスローブを羽織ると寝室を覗いた。 「筑紫さん、今日って……」  今日はいつもと違う。それが確信に変わった時、腹の奥がムズムズと疼いた。揺れるLEDキャンドルに映し出された筑紫さんの影は色気を纏っている。お揃いのバスローブ姿でベッドに腰掛け、俺を見ると射竦めるような視線を寄越した。 「ここにおいで」 「え……?」 「いいだろ。たまには、こういうのも」  ぽんぽんと膝を叩き、昼間と変わらない柔和な笑顔に戻る。大きく開いた脚のせいで少しはだけたバスローブの具合さえ、計算されているように見えた。筑紫さんは俺の手を掴んで、少し強めに引き寄せる。 「それとも、いつものプレイのがよかった?」 「……いや俺は、別に……」  真正面に立って筑紫さんを見下ろすと、腰から腿の方までゆっくりと撫でられ、膝に乗るよう促された。密着した下半身の熱さを視線と表情で揶揄うと、顎を掴まれキスをされる。 「ん、……んんっ……」  なぜか初めてキスするような感覚だった。絡ませた舌を吸われ、敏感な先端を上下の歯で挟まれる。筑紫さんの上顎をなぞろうとすると、表面のざらざらを擦り合わせるように掬い上げられた。 「……ん、あっ……」  一層強く腰を抱き寄せられ、硬くなった筑紫さんのチンコが俺の下腹部の辺りで存在感を増す。触れ合う唇の奥では、押し返された舌が自分の中で縺れ、小さく縮こまった。その隙に、筑紫さんは俺の歯列をなぞり、喉奥まで侵入しようとする。 「……ふ、んぅ……はっ……」  息苦しさにほんの少し顔を逸らせた途端、筑紫さんは俺をベッドに押し倒した。 「|陽和《はるかず》」 「え……?」  俺の名前。一度も呼ばれたことなかったのに。問おうと開いた口は、すぐに再びキスで塞がれる。今度は先ほどより激しく、貪られるような感覚だった。躊躇なく流し込まれた唾液を否応なしに飲み込む。縋るように掴んだバスローブはすぐにずり落ち、露になった胸が俺に重く伸し掛かった。 「つく、しさっ……」 「夜は晶って呼ぶ約束しただろ?」 「それは……」 「陽和。ほら、俺のこと呼んでごらん」  呼び方なんて、シチュエーションプレイの一貫じゃないのか。それとも、これも1つのシチュエーション? 「……ん……」  筑紫さんは俺のバスローブの中に下から手を差し込んで、ゆっくりと焦らすように腿の付け根を撫でた。 「呼べない? 俺の名前」 「……呼べるけど」 「恥ずかしいんだ?」  金玉を擽られ、もどかしい刺激に腰が揺れてしまう。筑紫さんはいたずらっ子のような表情を浮かべたまま、何も言わずに俺を見下ろしていた。俺が根負けするのを待っているらしい。 「わ、わかった……呼ぶから」 「ん?」 「…………晶」 「なに?」 「呼べっていうから呼んだだけじゃん」  筑紫さんの指が上へと滑り、そのまま割れ目に沿って這う。 「いつも思ってるけど」 「……んっ」  入り口をくるくるとなぞった後、つぷりと中に押し入られた。仕込んでおいたローションが小さな気泡を作りながら染み出していくのがわかる。 「陽和のアナルってエロいよな」 「……あ?」 「形とか色とか」 「どこが……んっ、くぅ……」 「味とか感度とか」  ゆっくりと内壁の具合を確かめるように、指で押し広げたり、擦ったり。ちょうどいいところを何度も掠める指に、思わず腰が揺れてしまう。 「あと、そういう顔もソソる。歯、食いしばる癖あるよな」 「うるせ。な、なんかっ……んっ、調子狂うっ……」 「じゃあさ」  焦れったさに脳がふやかされるような気分だった。筑紫さんは俺の耳元に口を寄せると、息を吹き掛けながら呟く。 「このまま挿れていい? そしたら俺も、陽和と同じくらいエロくなると思う」  真面目な筑紫さんの、思いもよらぬ発言に自然と笑いが溢れた。本当に、今日は何なんだ。いつもと違いすぎて変な感じ。  ……でも、俺はその理由を知っている。 「自分で言う? ……いいよ。挿れて」  大きく開いた脚を片方だけ抱えて誘えば、筑紫さんの唇がケダモノのように歪んだ。本能的な何かと理性的な何かが同時にムクムクと膨れ上がり、俺は覆いかぶさってきた肩を掴む。  そのまま、筑紫さんは真っ直ぐ狙いを定めて俺を貫いた。 「ああぁっ……ん、きもちい……」 「俺も。……陽和、やわらかくて、すげー気持ちいい」  俺の中で、熱く熱く血液が滾っているのがよくわかる。  例え態度を変えても、言葉を変えても、呼び方を変えても、変わらない。やっぱりこの人は、俺が欲しくて堪らないんだ。  筑紫さんは俺の顎を掴んでキスをすると、すぐに大きく腰を振り始めた。突き上げられるたび、喉の奥から声が漏れる。 「あっ、あぁっ、ああ゙あ゙ッ……」 「陽和、はるかずっ………!!」  揺らめくLEDキャンドルが作った2人の影は、幾重にも折り重なって、境目さえもわからない。筑紫さんの首から滴った汗が俺の頬を濡らしたとき、俺はやっぱり、苦しそうに喘ぐこの人の顔が好きだと思った。

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