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[バク] 8.奇数の日と偶数の日
吉祥寺の一軒家には一日置きの奇数の日に、客が訪ねてきた。
奇数の日の僕は、夕食前に風呂に入り濡羽色の作務衣に着替える。
すると夕食後の決まった時間に、インターホンが鳴った。
サーバルが客を迎え、香り高いコーヒーを淹れる。
テーブルには四つ足人形が置かれ、砂時計をひっくり返すと、客が話し始めた。
話が終わった後、客と一緒に「タイタニック」の映画を見るのも決まり事のようだ。
ディンゴはいつも、客の恋や愛の話をリビングで一緒に聞いた。
「タイタニック」には飽きてしまったようで、映画の間はロッキングチェアで居眠りをしていたりする。
僕は映画の頃にはグッタリしているし、いつも字幕版だから未だにどういうストーリーなのか、把握できていない。
サーバルだけが客に付き合って、毎回三時間を超える映画を共に見ていた。
映画が終わって客が帰ると、僕はディンゴに自室へと運ばれる。
そこで長く綺麗な指で、白濁の排出を手伝ってもらう。
そしてその気持ちよさに少し眠れば、体調不良がウソみたいに解消されている。
ここまでが、ワンセットだった。
—
僕、サーバル、ディンゴはこの家で暮らしていたが、ヘラジカは、いつも一軒家にいる訳ではなかった。
週に二回ほど顔を出し、皆と夕食を食べ、客が来る日には話を一緒に聞いたりもする。
そして二階にある部屋で眠り、朝に出掛けていく。
ここに来ない週五日を、どこで寝泊まりしているのかは知らない。
「洸、色々と疑問があるでしょう?」
夕食を食べながら、僕にそう聞いてくれた。
もちろん、聞きたいことばかりだったので、深く頷く。
「この仕事の詳しい説明は、後日きちんとしますよ。まずは何件かの依頼をこなし、慣れましょう。その方が説明を聞いた時、すんなりと理解できるはずですから」
少し残念だったが、ヘラジカの言いたいことも分かったので承知した。
その分、頭の中では色々なことを考え想像する。
東京へ来てから、陰鬱な気をあまり放たなくなったと自分では思っている。
なのに叔母のスナックでのように、客の恋愛感情が冷めるのはなぜなのか。
やはり僕のせいなのか……。
そしてディンゴにしてもらう行為の意味は?
触られる確かな理由が分からないくせに、僕は嫌悪感なく身を委ねてしまう。
だってそうすることで、胃の中の石が溶けるかのごとく、体調が回復するのだから。
「可哀そうにな。これは排泄行為だから、恥ずかしがらなくていい。俺に任せろ」
ディンゴのやさしく低い声は、いつも僕に響いてきた。
彼に触られて吐精する気持ちよさは、困ったことに少しずつ感度を増している。
最初こそ、すぐに出てしまったが、今は浅ましくもギリギリまで我慢し耐えて、ブルっと腰を震わせ解き放つ。
そうすると全身がドクンドクンの脈打ち、快感が身体中を駆け抜けていくのだ。
ディンゴはそんな僕に呆れもせずに、毎回優しい手付きで触って、擦ってくれる。
「気持ちいいか?」
「き、きもちいい、あっ」
身体をくねらせる僕の背中を、なだめるように撫でてくれた。
「はぁはぁ」と息を乱し、喉から湧き出るような高く甘い声とともに吐精する。
すると、フワフワとした眠気に襲われ、僕は眼を閉じてしまう。
「りょ、了也さん、ありがと……」
なんとかお礼を伝え、そのまま眠りに誘われる。
「可哀そうにな」
彼が呟くようにそう言いながら、飛び散った白濁を綺麗に拭き取ってくれている記憶は、かなり曖昧だ。
そんなだから、日々の極普通の日常生活の中でディンゴと眼が合う度、僕の胸はなぜだか苦しく締め付けられる。
胃ではなく、今度は心臓の辺りに症状が出ているのだろうか?
けれど、原因不明の具合の悪さに何年も耐え忍んできた僕にとっては、そんな苦しさは「へ」でもなかった……。
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