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[バク] 12.バクの友達
食事が運び込まれ、和樹さんが乾杯の音頭を取って、宴会が始まった。
僕は聞いた話を消化しきれず、何だかぼーっとしてしまう。
「洸くん、この刺身美味しいよ」
サーバルに言われて我に返り、慌てて箸を持つ。
しばらく食事を進めていると、壇上に三十代くらいの男の人が上がった。
「バクの皆さん、本日はお会いできてうれしいです。私は本部所属のバク、手塚です。この場をお借りして私自身が実践している防衛方法について、お話しします。参考にしてみてください」
海老の天麩羅を口に運んでいた僕に、サーバルが「これ、よく聞いておいて」と話し掛けてきた。
「まず、とにかく仕事以外では恋愛話を耳に入れないこと。人混みに行く時には、私はヘッドホンで音楽を聴くようにしています。喫茶店なども危険ですね。隣の声の大きな女性が、突然友達に恋愛相談とか始めますから。電車やバスでも恋話を繰り広げる女性たちは、意外と多いです」
「うんうん」という相槌が、会場後方から聞こえてきた。
「数年前まで、テレビや映画など電波を通して聞いた話は大丈夫で、生で聞く声がダメなのだと思い込んでいました。しかし違ったのです。作られた話は平気で、実体験の話がダメなのです。創作されたテレビドラマや映画は恋愛物語でも平気です」
同じ体質を持つ人の、実体験が聞けるのは本当にありがたい。
「随分と前ですが、なぜかウソばかり言う相談者さんが来て、その時は具合が悪くなりませんでした。彼は悪意を持って我々を試そうとしたようですが、ウソだと見抜くことができたのです。そして最近私が最も気を付けているのが、スマホです」
そういえば、僕のスマホはまだサーバルに預けたままだ。
「一般の人が自分の恋愛感情をストレートに書き殴っている文章を目にすると、多少具合が悪くなります。感情を吸い取るまでは至りませんが、そんなSNSの投稿を多数見ていると、内臓が重たくなってきます。だから今は、そういう不特定多数の人が使うツールは見ないようにしています」
なるほど。
僕はふむふむと頷いてばかりだ。
「皆さんもどうか、仕事以外で恋や愛を吸い取って思わぬ体調不良に陥らぬよう心掛け、幸せに暮らしてください」
話をしてくれる手塚さんの言葉には実感が籠っていた。
きっとバクとして様々な苦労をしてきたのだろう。
こんな先輩がいるなんて、心強い。
—
皆、アルコールが入り、会場は賑やかになってゆく。
僕はお酒を飲んだことがないし、飲もうとも思わないから、食事が終わればすることがなくなってしまった。
それでもディンゴと二人並んで座っていると、色んな人が挨拶に来てくれた。
「バクも、ディンゴも、頑張れよ」
「困ったことがあったら周りを頼ればいいから」
そう言っては、ディンゴにビールを注いでくれる。
地方の銘菓を土産だとくれる人もいた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
二人して頭を下げれば、皆が畏まらなくていいと、親しげに接してくれた。
隣のグループにいた、おそらく僕と最も年が近いだろう小柄な男性もふらっとやってきて、僕の隣にペタンと座った。
金髪に近い明るい髪がクルクルとしていて、人懐っこい表情は可愛らしかった。
ぐっと顔を近づけて話し掛けてくる。
「洸くんでしょ?和樹さんに聞いてるよ。僕もバク、二十歳。同い年。この仕事を始めて八か月経ったところだよ」
「えっと……」
「ごめんごめん。僕は水川秋良(みずかわあきら)。秋良って呼んでよ」
「あ、秋良くん」
「うん、そうそう。出会えてうれしいなー。同い年のバクの友達ができるなんてさ」
友達。
その言葉を聞くと、じわじわと喜びが込み上げてきた。
自分にも、友達ができようとしているのだ。
「ねぇ、連絡先交換しようよ」
「うん。あっ、ちょっと待ってて」
どこかに挨拶に行っているサーバルを、キョロキョロと探す。
そして誰かと雑談しているサーバルに駆け寄って話しかけた。
「ねぇ、洋介さん。僕のスマホはいつ返してもらえる?さっき、防衛方法も聞いたしそろそろ……」
サーバルは僕が座っていた席を見て、こちらを伺う秋良くんの姿に、状況を察知したようだ。
「はいこれ。どうぞ」
ポケットから僕のスマートフォンを取り出してくれた。
しかも。フル充電にしてくれてある。
「やったー。ありがとう」
秋良くんのところに戻ると、疎い僕のために、手際良く、メッセージのやり取りができるよう設定してくれた。
宴会は皆で三本締めをして、お開きになった。
部屋に戻って今度は露天風呂に行き、そこでまた偶然に秋良くんと会った。
お喋りしながら湯に浸かり、二人でのぼせそうになって、慌てて上がる。
並んでフルーツ牛乳を飲みながら「なんて楽しい夜だろう」と呟くと、秋良くんも「ホントに!」と同意してくれる。
きっと彼も中学高校の修学旅行には参加できていないのだろう、と思えた。
翌日。
帰りの特急電車の中で、秋良くんと何往復かメッセージを送り合った。
可愛いスタンプも送ってもらった。
僕が余程うれしそうな顔をしていたのか、サーバルが「よかったね」と声を掛けてくれる。
照れ臭くて「うん」と答えながら、スマートフォンを鞄にしまう。
そこからは、行きに読んでいた推理小説を取り出し、続きの読書に集中しようと努めた。
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