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[バク] 15.友達から教わる
メッセージアプリで頻繁にやり取りをし、すっかり仲良くなったバクの秋良くんが、吉祥寺まで遊びに来てくれるという。
僕は、約束時間の何分も前から外に出て彼を待つ。
子どもみたいにワクワクして、じっとしていられなかったのだ。
前庭にどんと構える大きな樹の枝先には、たくさんの蕾らしき物が付いていた。
まだまだ硬く閉じているけれど、ヘラジカが言うには、あと十日もすれば花が咲くらしい。
スマートフォンの地図アプリを見ながらこちらに歩いてくる秋良くんが、隣のコインパーキングの先に見えた。
「秋良くーん!」
声を掛けると僕に気がついて、駆け寄ってきてくれた。
「洸くん、一ヶ月ぶりだね!」
秋良くんがヘッドホンを外し、ニコッと笑ってくれた。
—
サーバルに淹れてもらったコーヒーを持って、僕の部屋に二人で行く。
ソファは無いから、床に敷かれたフワフワな絨毯の上に座りこんだ。
「洸くんたちチームの拠点は都内なのに一軒家か、いいなぁ。うちはファミリータイプのマンションだよ」
「そうなの?じゃ、僕はラッキーだったんだね」
「うん、そうだよ。それに洸くんのディンゴ、めちゃくちゃ美形だし、羨ましい」
「秋良くんのディンゴは、この前の箱根でチラっと見かけたけど強そうな人だね。健一さんだっけ?」
「そうそう。健ちゃんはね、元ヤンキーの元ホスト。格好いいけどキャラが強い。きっとケンカも強いよ。相談者が持ち込む話に対して、くだらねぇなぁ、馬鹿じゃねぇーの、アイツら頭が悪いなとか、陰でよく暴言吐いてる」
口調を真似て喋る秋良くんが、面白い。
「でも、正直僕も不思議に思ってるんだ。みんな愛とか恋とかそんなものに、どうしてあんなに夢中になるんだろうって……。秋良くんはそう思わないの?」
「僕も最近までは、そう思ってたかな」
秋良くんは絨毯の上に無造作に置いてあったクッションを引き寄せ、抱きしめる。
「え?今は思ってないってこと?」
「うーん。段々とさ、理解できるようになっちゃったかも……」
「そうなんだ!なんか、いいね」
秋良くんは恥ずかしそうに、俯く。
僕もいつか、皆が熱心に語る愛や恋について共感したりする日がくるのだろうか……。
「ところでさ」
「なになに?」
秋良くんが顔を近づけてきて、ひそひそ話のように喋るから、僕も身体を密着させる。
中学高校と殆ど学校にいかなかった僕にとって、こういう友達同士とのやりとりは新鮮で青春ぽくて、気分が高揚していく。
「洸くんはさ、どうやって出してもらってるの?」
「出してもらってる?何を?」
「ほら、相談者が帰った後、ディンゴにしてもらってるでしょ?」
思いもよらぬ話で急に顔が赤くなってしまったのを自覚し、慌ててコーヒーをゴクゴクと飲んだ。
「ど、どうやってって……、指で、触って、もらってる、けど……」
小さな声で、しどろもどろに答えてしまう。
「まだ触るだけ?」
まだ、とはどういう意味だろう。
「僕はさ、バクになって九か月くらい経ったんだけど、最近は健ちゃんとセックスしてるんだ」
「へ?」
本当に驚いて固まってしまった。
「洸くんもさ、したかったらディンゴに頼んでみたら?」
ブンブンと首を横に振る。
「いきなりセックスしなくていいんだよ。触ってもらうだけじゃなくてさ、ほら、舐めてもらうとか、一緒に擦ってもらうとか、色々段階を経て、ね?」
「えっいや、あ、あの……」
「だってさ、僕らだけ気持ちよくなるんじゃ、申し訳ないじゃん。ディンゴにも気持ちよくなってもらわないとさ」
確かにと、思ってしまった。
まだまだ僕は、自分のことしか考えられずにいたようだ。
だけど、いきなりセックスとは未知すぎる。
思春期にそういうことを、唾棄し嫌悪して過ごしてきたから知識もほとんどない。
僕もクッションを引き寄せ、ギューッと抱きしめた。
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