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[サーバル] 2.動物園で過去の恋話

洸と二人、キッチンのテーブルで昼飯を食べていた。 二人だから簡単に作ったナポリタンだ。 「ねぇ。洋介さんはどうしてサーバルになったの?」 洸が唐突に、俺に問う。 「僕はね、将来何になりたいかなんて、考えたこともなかったよ。だからこうしてバクの仕事をもらえて、感謝してるんです。生まれついた特性が職業になるって、とってもラッキーなことだよね。サーバルは、洋介さんが数ある中から選択した職業なの?」 「俺もさ、似たようなものだよ。知らない間にサーバルになってた。あの時点では選択肢もなかった気がする。なぁ、これ食べたらさ、散歩に行こうか。今日は相談者も来ない偶数日だし」 「うん、行く」 洸はナポリタンを頬張り、口の端をケチャップで汚しながら頷いてくれた。 — 桜は終わってしまったけれど、散歩日和のいい天気だった。 並んで歩きながら、洸にサーバルになった経緯を話して聞かせる。 既に無になった過去の恋話だから、バクに聞かせても具合は悪くならないはずだ。 「和樹さんが草上カウンセリングを事業として始めて、最初の客が俺だったんだ。七年前、大学生になったばかりの頃の話だよ。あの頃、組織にヘラジカというポジションは無くてね、和樹さんがサーバルだった」 窓口で数百円を支払い、動物園、いや正しくは自然文化園の鳥ばかりいる分園に入る。 洸は既に一人で何度か来ているようで、慣れた足取りだ。 「その頃の俺は、高校一年の時からずっと、英語教師と付き合ってたんだ。あっ、ちなみに男で日本人ね。今思えば、初めて性的な接触を持った人だったから、好きだって思い込んでただけだったのかもしれないけど」 久しぶりに彼の顔が頭に思い浮かぶ。 「でね、その英語教師が、会わせたい人がいるからって俺をカフェに呼び出したの。大学生になって少し距離ができていたから、久しぶりに会えるって喜んで出掛けたよ」 洸は、柵の向こうのオシドリを見ながらも「うんうん」と俺の話を聞いていた。 「カフェに先生はまだ来ていなくて、先生の友達だと名乗るバクの手塚さんと、サーバルの和樹さんが俺を待っていた。手塚さんて、箱根で防衛方法の話してくれた人ね」 「うん、覚えてます」 「和樹さんは俺に尋ねた。「洋介くんは先生のこと好きなんでしょ?どんな風に?」「そう。それはいいね、素敵だね」「それでそれで」って。俺は得意げに先生とのことを話したよ。友達にも内緒にしてたから、誰かに話せるのはうれしかった」 洸は歩みを止めて、俺を見ている。 「途中で手塚さんが、具合悪そうに目を閉じたのを覚えているな。「この人大丈夫?」って和樹さんに聞いたら「ちょっと貧血気味な体質なんです。気にしないでください」って言われた。あの時は『騙し討ち』だったからさ、獏人形も登場しなかったなぁ」 洸には既に話の先が見えているはずだ。 『騙し討ち』の案件はまだ俺たちのチームでは受けてないが、そのうち担当する時もくるだろう。 「今とは違って、三時間その場で待ったりはしなかった。それに話が終わる頃、先生がカフェに来てくれてね。俺らはすぐに和樹さん達と別れ、ラブホテルへ行ったんだ。先生は三時間って目安を知ってたんだろうね。妙に急いでエッチをしたよ。俺はさ、なんだかいつもより気持ちよくなくて、心が冷めていて、乗り気にならなくて。だけど風邪でも引いたかなとしか、思わなかった」 静かな園内にツルの甲高い鳴き声が、響き渡った。 「恋や愛をバクにゴッソリ吸い取られると、無になるんだ。だから自分では、無くなったことに気が付かなかった。その日の夜だって、俺は普通にバイトに行き、普通に家に帰って寝たんだ」 暑い夏だったことを覚えている。 「翌日の夕方、和樹さんに再び呼び出されてね、同じカフェに行った。そこで聞かれたよ。「先生と付き合ってるって昨日聞かせてくれたよね?今でも彼のことが好きですか?」って。」 ツルの鳴き声に呼応するように、他の鳥も鳴き出す。 「俺は本当にびっくりしたんだ。だって先生のことを思い出しもせず、丸一日を過ごしていたんだから。愛おしい気持ちは少しもなくて、思い出としても曖昧。もちろん記憶はあるんだけど、好きだと言う気持ちは微塵も湧かなかったからさ……」

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