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[サーバル] 8.誕生日のサプライズ
月末が近づくにつれ、和樹さんが吉祥寺の家に顔を出す回数が、いつもよりも増えた。
ふらっとやってきて、洸の部屋へ行き、二人でコソコソと何かを話し、一、二時間で帰ってしまったりもする。
洸が昼間に出掛けることも頻繁になり、毎回買い物袋をぶら下げて帰ってくる。
俺は鈍いタイプではないから、こういう時ピンときてしまうんだ。
今月末には俺の誕生日がある。
きっと和樹さんが洸をそそのかし、何かサプライズで祝わせようとしているのだろう。
五年前、まだサーバルではなかった俺の誕生日に、脅すようにねだって初めて和樹さんとセックスをした。
それからは俺たちは端的に言えばセフレのような関係になった。
あれからずっと気まぐれにダラダラ続いているかのような関係も、毎年俺の誕生日当日だけは、少しだけ意味を持った行為として身体を重ねてくれた。
一昨年の誕生日には、前チームの皆でこの家に住んでいた。
和樹さんがケーキを買って帰ってきて、夕食の後に皆で食べた。
夜には俺の部屋で、他の二人にバレないよう声を顰め、甘く甘く抱き合った。
昨年の誕生日には、チームが解散していて、俺は本部事務所勤務だった。
和樹さんは基本的に事務所で寝泊まりをしていたから、俺一人がこの広い家で暮らしていた。
「今夜は事務所に泊まっていきなさい」
そう言ってもらってソファベッドで朝まで何度も何度も互いを求めあった。
年々、ほんの少しずつ、理想の誕生日に近づいているように思う。
今年はきっと洸に「誰かの誕生日を祝う」ということを体験させたいのだろう。
俺としてもどんな誕生日になるのか、楽しみだ。
—
誕生日当日は、相談者の来ない偶数日だった。
朝食の後、いつも通り慌ただしく了也が出勤してしてしまえば、洸と二人のゆったりとした時間が流れる。
食後のコーヒーを飲みながらも、洸が少しソワソワとしているのが分かって可愛く思えた。
さぁ、どんなサプライズをしてくれるのだろう。
前庭に車が停まる音がした。
待ち構えていたように、洸が椅子から立ち上がる。
「あ、あのね、洋介さん。僕、今日が洋介さんの誕生日だって、聞いて……」
え?言っちゃうんだ。
サプライズじゃなかったのかと、むしろ驚く。
「俺の誕生日だと聞いて、どうしたの?」
「夜にパーティをしたいんだ」
やっぱり全部言っちゃうんだと思ったら、洸らしくて笑ってしまった。
「そうなの?それはうれしいよ!とっても」
「うん。だからね、頑張ってパーティの準備をするから、その間、出掛けていてほしいんです」
そういうことか。
今から和樹さんと洸が準備をしてくれる訳か。
そりゃここに俺がいたら、ダメだよね。
「いいよ。どこに行こうかなぁ。何時に帰ってくればいい?」
「それは和樹さんが、全部わかってるから」
「え?」
玄関ドアが開く音がして、足音がキッチンのテーブルに近づいてくる。
「支度はできましたか?洋介。さぁ行きますよ」
急かされて、慌てて出かける準備をする。
どうやら和樹さんは、俺を連れ出す役割らしい。
手を振る洸に見送られ、車は出発した。
「……洸くん、一人で大丈夫なのかな?」
思わぬ展開の驚きを鎮める為に、人の心配をしてみる。
「了也が半休取って昼に帰ってくるので、大丈夫ですよ。さぁ、どこに行きましょうか。どこにでもお連れしますよ、洋介」
今、この時間こそがサプライズだったのだ、と俺は気がついた。
行きたいところと急に言われても、思いつかなかった。
こうして、助手席に乗せてもらっているだけで、まるで恋人とデートをしているように感じられ幸せだった。
冬に洸を迎えに新幹線に乗った時も二人旅だとはしゃいだけれど、あれは百パーセント仕事だったから。
「おまかせします」
畏まってそう答えれば、ある程度プランを立ててくれていたようで、車は横浜方面に向けて速度を上げた。
中華街で熱々の小籠包を食べて、赤レンガ倉庫で洸へ土産の菓子を買って、ブラブラと潮風を感じながら海沿いを並んで歩いたりもした。
本当にデートをしているみたいで妙に恥ずかしく、いつもより無口になってしまう。
さらに和樹さんが、誕生日プレゼントに何か買ってくれると言うから、考えて考えてピアスを選んだ。
「きっと洋介に似合います」
その言葉がうれしくて、駐車場に戻った時に車の中で付け替える。
「どう?似合うかな?」
答えはなかったけれど、運転席から顔が近づいてきて、チュッとキスをしてくれた。
驚いた顔をすれば、もう一度、今度はゆっくり唇が重なった。
幸せで、夢みたいで、どうやら俺は浮かれてしまっていたんだ。
ふわふわと甘い気分に浸って、これが誕生日だけのサプライズだと、もっと自覚しておかなければいけなかった。
なのに、身の程知らずな俺は、自分が和樹さんの特別になったように感じてしまった。
だから、駐車場から走り出したばかりの車の中で、わざと、試すような質問をした。
「あのさ、もしももしもだよ。俺がサーバルを辞めたいって言ったらどうする?」
「え?」
「いやもしもだって。少しも辞めたい訳じゃない。例え話」
「もしも、本当に洋介がサーバルを辞めるなら……。そうですね、私もヘラジカを辞めますから、二人でどこか静かなところで暮らしましょうか」
「あっ、え?うん。いいね。あっ、いや、辞めないけどね」
手のひらが変に汗ばむ。
「もちろん、洋介は優秀なサーバルですから、辞められては困りますよ」
「あ、あのさ、今夜なんだけど、和樹さんの部屋で、一緒に寝てもいい?ほら、俺、誕生日だし……」
和樹さんのスマートフォンが鳴ったのは、そんなタイミングだった。
彼はチラッと着信画面を見て、目を見開く。
そして俺に断りも入れず路肩に停車して、電話に出た。
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