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[サーバル] 10.バク同士の会話

誕生日の一件以来、和樹さんとは会っていない。 何が忙しいのか、一軒家にも顔を出さない。 『申し訳なかった。必ず埋め合わせはします』というメッセージは来たけれど、返信はしないままだ。 これが原因で、俺はずっとイライラしていて、その自覚もちゃんとある。 仕事には影響を及ぼしていないつもりだけれど、客観的に見たらやはり少し気が短くなっていたのかもしれない……。 偶数日の午後、洸と二人でリビングにいた。 外は梅雨入り前なのにジメジメとした雨が降っていて、散歩にも行けない洸は退屈そうにしている。 暇だったのは我がバクだけではなかったようで、洸のスマートフォンが鳴った。 「もしもし。秋良くん!元気?うん、僕は元気だよ。うん、ハハハ、そうだね、うん。え?そんなことないよぉ」 洸は俺に気を遣ったようで、スマホを片手に自室へと引き上げていく。 俺はすかさず、ワイヤレスイヤホンを耳に入れた。 — 翌朝。 俺は洸に聞かれないよう二階に上がり、秋良へ電話をかける。 彼のサーバルを通すべきか迷ったけれど、直接のほうがスムーズだと判断した。 午後になり洸の部屋に声を掛けると、彼はベッドに入って丸くなっていた。 「どうした?具合悪い?」 「違う違う!大丈夫!昼寝しようかなって思っただけ」 昼寝なんて珍しいと思いつつ「ちょっと出掛けてくる」と洸に伝え、俺は駅へと向かう。 電車を乗り継ぎ目的の駅へ辿り着くと、もう一度秋良に電話を掛けた。 「もしもし。今着いた。駅ビルの一階にあるカフェで待ってるから」 「はーい。すぐ行くぅ」 険悪な空気を出して呼び出してるのに、秋良は何も動じないようで簡単に誘いに応じる。 カフェで目の前に座ってもそれは同じで「ねぇ、甘い物も頼んでいい?」と飄々としていた。 秋良は他のバクに比べるとかなり明るい。 特異な体質ゆえにしてきたであろう苦労を、あまり感じさせないから不思議だ。 「で、用事ってなに?」 ケーキを口に運びながら聞いてくる。 おおよその予測はついているくせに。 「あのさ、あんまり洸くんに変なこと吹き込まないでくれる?」 「例えば?」 「昨日の電話。あれ何?何の話していたの?」 「盗み聞き?洋介さん趣味悪いね。教えてもいいけどさ、流石に昼間のカフェで話す内容じゃないよ」 どうやらそういう自覚はあるらしい。 ケーキを食べ終わるのを待って、二人で駅前の公園にあるベンチへと移動した。 「じゃ、話してもらおうか」 「別にいいけど……。洸くんはね、ディンゴにたくさんキスしてもらうし、身体中を触ったり舐めたりもしてもらってるって。だけど、ディンゴの身体には触ったことがないんだってさ」 「バクはディンゴに触る必要がないだろ」 「気になるじゃん。そういう行為をして、興奮しているのは自分だけなのかどうかって。ディンゴの身体は果たして反応しているのかって意味ね。だけどさ、僕たちはイッた後、急激に眠くなるんだよ。どうしても抗えない。だから、その反応を確かめられない」 「そんな話をしてんのか、バク同士で……」 「僕のところは、健ちゃんが素直な人だからさ、「興奮しちゃったぜ」って言ってくれたよ。「俺のことも気持ちよくして」って要求してくれたから進展があった。でも、洸くんとこのディンゴは、サーバルに止められてるのか何なのか知らないけど、何も要求してこない」 これは、俺への嫌味なのだろう。 「だからね、一緒に考えたんだ。昼寝をして睡眠を充分に取ってから相談者に会って、さらにディンゴにシてもらう前にスマホのアラームを設定して、枕の下に入れておくのは、どうだろうって」 「なんだよ、それ」 「イッた後に寝ちゃってもさ、すぐに眼を覚ますことが出来れば、ディンゴが自分でシてることを確認できるでしょ?それ見れたら、洸くんも安心できるじゃん」 「ハッ、君たち中学生かよ。くだらない。二人でこそこそと昼間から、他に話すことないの?」 俺は少し呆れてしまった。 なぜか秋良の顔は、みるみると影ってゆく。 「洋介さんって本当にサーバルなの?ねぇ、最低だよ。洸くんが可哀そう」 「は?」 「じゃぁ僕たち、何を話せばいいの?天気の話でもすればいい?僕は健ちゃんと何をしたか、何をしてもらったかしか、洸くんに話せないんだよ?洸くんだって、ディンゴがしてくれた行為についてしか、口にできない。意味分かる?」 「え?」 「その行為に伴う感情を口にしたら、僕たちバクは無にしてしまうから。僕も洸くんも、誰にも惚気られないし、相談もできないし、愚痴れない。それが分かって言ってるなら、洋介さん意地が悪いよ」 秋良はベンチから立ち上がって、歩きだす。 俺が何も言えずにいると、立ち止まって振り返った。 「ねぇ、なんでそんなに過保護なの?僕のサーバルは好きにさせてくれるよ。バクの好きにしたらいいって、いつも言ってくれる」 秋良のチームのサーバルは、四十代後半の男性で、いかにも仕事ができる風貌の男だ。 もし何か問題が生じても、自分なら対処できると思っているのだろう。 その自信はバクの安定に繋がるのかもしれない。 「洋介さんがそんなにバクを心配するのって、前のチームを解散させたから?」 俺が何も答えないと、リュックサックからヘッドホンを取り出して耳に当て、歩いて行ってしまった。 俺は秋良が話してくれたことを考えながら電車に揺られ、洸の待つ家へと帰った。 二時間半ほどの外出だったが、洸の部屋を覗くと、スースーと気持ちよさそうな寝息が聞こえた。

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