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[サーバル] 11.繰り返されていた愚行
秋良と会った日の相談者は、大学一年生だった。
相談料金の設定からして、未成年が来ることは珍しい。
そして、その内容にとても驚かされた。
なぜなら、その相談者が語ったことが、自分が十九才の時にバクに話した内容にそっくりだったから……。
サーバルはプライバシーに踏み込み過ぎないよう指示されているのに、俺は、我慢ができなかった。
「その高校ってさ、大学付属の私立校?正門の前にカレーパンが有名なパン屋があるよね?」
「え?あっ、はい」
大学生からしたら、必要な質問を投げかけられたと思ったのだろう。
「その先生ってさ、英語の教師?若い時に何年かイギリスに住んでたっていうのが自慢の」
「はい!そうです」
むしろ俺が言い当てたことを、獏人形の効果だと思ったようで「すごい!」と驚いていた。
やっぱりあの男なのだ。
俺の通っていた高校の英語教師。
若い男が大好きなアイツは、未だにこんなことを、繰り返しているのだ。
腹が立って腹が立って、どうしようもなかった。
だから、相談者に感情移入してしまった俺は、彼を見送る時、門柱のところで声を掛けた。
「忘れられてよかったな。きっとこれから、いいことがたくさんあるから。充実した大学生活を過ごせよ。もうあんな奴に引っかかっちゃダメだ」
相談者はぎこちなくペコリと頭を下げ、帰っていった。
余分な忠告だったと思うが、言わずにはいられなかった。
ふと、今回の相談代金は誰が出したのだろうと考えた。
辺りを見渡し、隣のコインパーキングに目を向ける。
エンジンが止まった車の中に男がいて、俺の方を見ているのが暗闇でも分かった。
一瞬で頭に血が昇って、深く考えもせず車に近づく。
すると、先生が車から降りてきた。
「久しぶりだね、洋介。まさかここで君に会うと思わなかったよ。大人になったな。元気だったかい?」
あろうことか、手を伸ばし頬を触ろうとするから、全力で振り払う。
「なんだよ、つれないな。将来を考えて君側の恋愛感情は消してあげたけれど、僕の心にはイイ思い出として全部残ってるんだよ。君たちを好いている感情がさ」
君たち、という言葉が俺のイライラを加速させる。
気が付いた時には、思いっきり頬を殴っていた。
先生は悲鳴のような大声をあげて、しゃがみ込む。
俺は人を殴った経験などなかったから、おそらく中途半端なダメージしか与えられていないはずだ。
なのに、大げさに声を上げ痛がった。
暗がりから誰かが駆けつけてきた。
「洋介!どうしましたかっ」
「か、和樹さん……」
ちょうど駅から歩いて帰ってきたところで、先生の悲鳴を聞いたようだ。
「あ、あんた草上カウンセリングの社長だな。どうなってんだ?オマエのところの従業員。いきなり殴ってきたぞ。警察に行ってもいいんだぜ」
「そうですか。では、行きましょう警察。十六才の男子生徒によからぬことを繰り返しているところから、全て話を聞いてもらいましょう。さぁ、立ち上がってください。同行しますよ」
和樹さんの言葉に言い返せない先生は、舌打ちをして車に乗り込み、慌ててエンジンを掛け走り去っていった。
玄関の前では騒動を聞いて心配し出てきてくれただろう了也が、こちらを見ていた。
「大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫ですよ。心配かけましたね、了也。ありがとう。洸はどうしました?」
「さっき眠ったところだ」
「そうですか。ご苦労様でした」
俺は昼寝をしていた洸の姿を思い出す。
今頃、枕の下でアラームが鳴って眼を覚ましているだろう。
部屋に了也の姿がなく、がっかりして泣いているかもしれない……。
和樹さんは状況を察してくれたようで、詳しいことは何も聞いてこなかった。
「同一人物が絡む案件について、何度も相談できないようにするシステムを構築しましょう。近々行うヘラジカの会議で議題にすることにします」
リビングへ戻った俺は、洸の部屋を覗いてみようかと思ったけれど、それより先に和樹さんに声を掛けられた。
「洋介。これは代表としての判断です。君を謹慎処分とし、三週間このチームを休止します。この家の生活を維持する仕事のみ、変わらず行ってください」
「……はい」
ただそれだけ返事をして、俺は自分の部屋へ引き上げた。
皆のコーヒーカップを片づけていないことを思い出したけれど、もう何も考えたくなかった。
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