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[サーバル] 13.語られた過去

「母親は色々な医者へ洸をつれて行ったけれど、少しも原因は分からないままで……。そんな時、母親が親しくなったのが、週に二日ほど東京から地元の大学病院にカウンセラーとして来ていた和樹さんの父親、草上さんだったんです」 ここで話が繋がった。 「草上さんは妻を若くして亡くしていたから、二人は誰に気兼ねするでもなく付き合い始めました。半年後には草上さんが俺と洸の父親になることが、概ね決まったようです」 俺はコーヒーカップを握りしめる。 「夏の暑い日、俺も実家に呼び出され、初めての草上さんと顔を合わせた。母親は張り切ってキッチンで料理を作ってましたよ」 話が不穏になるのが予測でき、身構えてしまった。 「母がキッチンにいる間に、俺と洸は草上さんと話をし、自分たちに義理の兄ができることを知りました。あの時はうれしかったなぁ。母親と洸は、草上さんと一緒に吉祥寺の家に住むという話になっていました。東京のほうが洸を診てくれる医者がいるはずだと、母親は引っ越しに積極的だったんです」 この家のことだ。 「料理をする母の後ろ姿を見ながら、草上さんはいかに母が素敵な女性であるか、どれだけ愛しているか、俺たちに話して聞かせました。結局、話の途中で洸の具合が悪くなって皆で揃って母の作ったブイヤベースを食べることは叶いませんでした。そして翌日、草上さんの愛が冷め、母は捨てられたんです」 「和樹さんと洸はその時に会っているの?」 「いや、息子さんのことは、その段階では俺も洸も名前も知らなかった」 和樹さんと洸にそんな過去があったなんて……。 「母親は段々と、自分の不幸は全て洸が原因ではないか、と思い込み始めました。過去には、俺が実家に彼女を連れて帰り、翌朝に破局したということもあったから。それらを総合的に判断し、洸のせいだという結論に至ったのでしょう」 事実、原因は洸なのだから、母親がそう思うのも無理はない。 「洸が十七才になる前に母親は行き先を告げず、家を出て行った。だから俺は、東京の職場を辞め実家に戻り、洸と二人暮らしをすることになりました」 「なるほど……」 「けれど、地元に仕事はなく、叔母のスナックでボーイを始めて……。洸は何とか進学した高校を、出席日数が足りず中退しました。それが四年前の出来事です」 なんと相槌を打てばいいのかも、分からない。 「俺が実家に戻ってすぐの頃、草上さんの息子である和樹さんが訪ねてきましたよ。そしていきなり「この家には野良のバクがいるでしょう?」と言い放った。その時は何を言われたのか分からなかった。けれど、とにかく洸を引き取りたいという和樹さんの申し出に、俺はそんな義理はないと強く反発して、追い返しました」 兄弟になれたかもしれない三人なのに。 「その後も時々、和樹さんは実家を訪ねてきた。一度も洸と顔を合わせたことはなかったけれど「二十才になったら彼を引き取ります」と彼は一方的に宣言していましたよ」 ここまで聞けば充分だった。 俺がこの吉祥寺の家に引っ越してきたのは、和樹さんの父親が、失意の末にどこか東北の田舎に単身引っ越した後のことだから。 そして、洸がこの家に来たのは、彼が二十才になる前日だ。 「和樹さんが最初に言った「バク」という言葉をネットで度々調べたんだ。そこで「恋や愛が消える」という事例と共にバクという単語が出てくる投稿を一件だけ見つけました」 「孝志さんには、ピンと来たのですね」 「信じられなかった。洸にあんな力があるなんて……。叔母の店で、何度も驚かされましたよ。でも、洸はその度にどんどんと体調を悪くしていった。可哀そうなことをしている、とは思っていました」 孝志の顔は悲しそうに歪む。 「でも、俺なりに色々と検証していたんです。草上さんが洸を迎えに来る前に、知っておきたかったんです、弟のことを。それにしても、誕生日前日迎えにくるなんて、卑怯だよ全く」 孝志は最後には楽しそうに笑った。 全て話して少し気が楽になったのかもしれない。 帰り際「一つだけ確認させてください」と質問された。 「洸の体調を回復する為に、変な薬とか使ってないですよね?」 今度は俺が笑ってしまった。 そうかそういう心配をしていたのか、と。 「大丈夫。身体に害のあることはしていません。解毒みたいな方法をとっているだけだから、心配しないで」 「そうか、信じるよ」 「安心してもらえたなら、なにより」 「うん。本当はさ、洸のことはこれ以上俺一人ではどうにもならなかった。だから、感謝もしているんです。和樹さんによろしく伝えて」 そう告げて帰っていった。 洸と和樹さんが帰宅し、孝志が来た事を伝えようか迷ったけれど、なんとなくやめた。 二人にはそれぞれ別々のタイミングで話す方がいいだろう。 もらった菓子折りは、自分の部屋に持って行って、こっそりと一人で食べた。 美味いはずの餡子が、ずっしりと胃に応えた。

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