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[サーバル] 14.従兄弟と幼馴染の関係

雨が止まぬ土曜。 来客がないだけで、毎日は単調に過ぎていく。 けれど謹慎処分中の身として過ごすのも、明日で最後だ。 俺はこの数日、今の自分が何をすべきかよくよく考えた。 考えて、考えていても仕方がないと気がつき、了也とゆっくり話をしてみることにした。 彼がいったい何者なのかあまりにも知らないから、直接本人に聞くことにしたのだ。 「リビングに大きな観葉植物を置こうと思うんだ。車で買いに行きたいんだけど、了也さん手伝ってくれる?」 一緒に行きたそうにしていた洸に留守番を任せ、二人で社用車に乗る。 「洸には聞かせたくない話か?」 助手席に乗り込むなり、そう聞かれた。 さすがに聡い男だ。 車を発進させ、それならばと鋭く切り込む。 「最近、和樹さんがコソコソ会っている男について教えてよ」 「なんで俺がそいつを知ってると思った?」 「うーん。サーバルの勘?」 「なんだそれ。恐ろしい勘だな」 「いや……本当はカマをかけただけ」 誕生日のデートごっこが急に幕を閉じた後、和樹さんと了也は電話で長々と話していたと、洸が言っていた。 それが気になっていただけだ。 雨の環状線を車が走る中、おかしな質問をされる。 「隣にコインパーキングが出来る前、この車はどこに置いていた?」 「え?あぁ、隣の家。俺たちの一軒家と同じくらいの大きさの屋敷が建っててさ、同じように前庭が駐車場になってた。でも人は住んでなくて、和樹さんは隣の家と交流があったらしく、そこに置かせてもらってた」 「取り壊されてコインパーキングになったのは、いつ?」 「うーん、昨年の秋かな」 そんな話がしたいわけではないのだ。 「でさ、了也さんは何者?」 「ん?あぁ、そこからか。まぁいい。和樹さんには洋介に聞かれたらちゃんと話してやってくれって、言われてるからな」 「えっそうなの?」 「今、コインパーキングになっている場所は、俺の従兄弟の家だった。従兄弟は和樹さんと同い年で、二人は幼稚園から高校まで同じ学校に通った幼馴染だ」 「俺がここに引っ越してきた三年前にはもう誰も住んでいなかったよ」 「あぁそうだな。従兄弟はバクでさ。家族は彼が中学生の時に一家離散した」 先日聞いた洸の生い立ちと同じだ。 「和樹さんがバクという者に初めて触れたのが、従兄弟だったと思う。従兄弟はバクだということを抜かしてもオカルト好きな変わった男で、それでも幼馴染である二人の関係は密だった」 想像以上に核心に触れる話が始まって、ハンドルを握る俺は、姿勢を正す。 「というか和樹さんが従兄弟を、見捨てないでいてくれたんだろうな。だからバクの特性に対して自分は「取り憑かれてる」とか「呪われてる」とか思い込んでいた従兄弟の体調不良が、どういう行為で改善するのか彼らは発見できたんじゃないかな」 「密な関係……」 「まぁ昔の話だよ。従兄弟は昔も今も「バクを治したい」「取り除きたい」と思っている。十代から和樹さんに手伝ってもらって、誰かの恋心を消す実体験を繰り返し、バクの特性を理解していったんだろう。けれど結局治す術は見つからなくて、従兄弟は僅かな伝手を辿って海外へ出た」 バクのセオリーとは違う、意外な話だ。 「あの男、同じバクでも洸とは根本が違いすぎる。でもそういう奴なんだ。頭が悪いのかキレすぎるのか、分からないけれど普通ではない」 おそらく切れ者なのだろう。 「まぁ詳しいことは、俺も知らないよ。とにかく従兄弟の件を経て、和樹さんは世の中にいるバクを救いたいと考えたんだろう。幼馴染を救えなかった分、力を注いでいるんだと思う」 「二人の関係は、バクの力で無になったわけじゃないんだね」 単純に疑問に思い口にする。 「んー、二人はいわゆる恋人同士ではなかったんだろうな。従兄弟は人を愛するようなタイプではないんだ」 「それで?なんで今回、了也さんがディンゴとして登場したの?」 「俺は今はしがないタウン誌の編集やってるけど、一応物書きでさ。従兄弟はバクを世間に知らしめたくて本を出すっていうんだ。そうすれば治す方法が見つかるかもしれないって」 「そんな……。バクの存在は公になるべきではないのに」 「で、事情があまり分かってなかった俺は、その話に乗って和樹さんに突撃取材した。最初はあしらわれたけれど、結局は内部に取り込むっていうあの人らしい方法で俺を懐柔したわけだ」 「その本の出版はどうなったの?」 「うーん。チラッと和樹さんに聞いた話によれば、従兄弟は最近トラブルを起こして借金を作り、解決する為に和樹さんを頼ったらしい。で、助けてやる条件として和樹さんが提示したのが、出版の中止だったというから、無くなったんじゃないかな」 それが最近、和樹さんが多忙な原因だろうか? 「ただこれからもずっと、あの従兄弟が和樹さんの心配の種であることには変わりないだろうね」 大型の園芸店は、雨のせいか空いていた。 大きなウンベラータの鉢植えを購入し車に積んだ。 きっとリビングの窓際にぴったり合うだろう。 帰りの車の中で、了也に聞いた。 「その従兄弟は器用?粘土で人形とか作れるくらいにさ」 「あぁ、そうだな。子どもの頃から工作が得意で小学生の時から陶芸教室に通ってたらしい。海外ではパトロンが付いて創作活動をしているって聞いてる。なんで?」 「いや別に、なんとなく」 あの獏人形の大元は、その従兄弟が作ったのだと確信した。 一軒家が近づいてきた時、了也は俺に言い聞かせるように話しを始める。 「洋介の前のチームが解散したって話は聞いたよ。だからってさ、バクを一括りにしちゃダメだと思うんだ。前チームのバクと洸は別の人間だ。俺の従兄弟と洸だって、同じバクでも全く違う。洸の友達の秋良だって、あれはまた異質だろ?」 「うん。そうだね」 了也が言いたいことは、分かった気がする。 「それでもさ、俺はサーバルとしても友達としても洸くんが心配だし、辛い思いはしてほしくない。バクだからじゃなくて、洸くんだから幸せになってほしい。最近はそう思ってる」 「それは俺も同感だな。俺は洸が望むことを、もっとしてやりたいよ……」

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