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[サーバル] 15.雨があがる

翌日の日曜は、昼過ぎからようやく晴れた。 リビングのカーテン越しに、昨日買ったウンベラータへ午後の光が降り注ぐ。 洸が伸びた髪を切りたいと洗面所の鏡の前に、新聞紙を広げている。 「俺の通っている美容院に連れて行ってあげる」と何度か提案したが「もう何年も自分で切っているから大丈夫です」と言う。 すでに何回かこの光景を見たけれど、不器用な洸にしては、確かに上手にカットをする。 文具バサミで髪を切る洸を鏡越しに見て、俺は唐突に彼の兄・孝志が訪ねて来た時の話を始めた。 洸は手を動かしながら、無言でそれを聞いている。 孝志がしてくれた話をそのまま伝えれば、自分のことなのに驚いていた。 幼かったし、体調も悪かったし、自分の身に起きた出来事を客観的に捉えられてはいなかったのだろう。 「……カウンセラーの草上さん、覚えています。いつもたどたどしい僕の話を、辛抱強く聞いてくれました。母とのこともうれしく思っていた。あの人の息子が和樹さんだったなんて。しかもあの時話題に出ていたのが、この家だったなんて」 「うん。俺もびっくりした」 「それと孝ちゃん、バクのこと知ってたんだね……」 「洸くんのことを、理解しようとしてくれてたんだと、思うよ」 「うん。今なら全てわかる。全部、僕のこの力のせいだったんだって。中学や高校のとき、クラス内で起きた悲しい出来事のあれやこれも、僕のせいだったんだ」 「洸くん……」 この子の辛さは果てしないと思った。 抱きしめてあげたくなったが、彼がハサミを持っていたから我慢した。 「おっ、洸。床屋さんしてるのか?俺の髪も切ってくれよ」 了也がのっそりと起きてきて、欠伸をしながら声を掛けてきた。 さっきまで泣きそうだった洸は笑顔になって「無理だよぉ」と必死に断っている。 躊躇いもなく、了也が背後から抱きつく。 「もうー重いよー。ハサミも危ないー」 照れた顔が可愛い。 結局、洸が了也の髪を少しだけ切ることになり、きゃあきゃあと言いながら床屋さんごっこが始まったから、俺は自室へ引き上げた。 ベッドに寝転んでいると、前庭から車が停まるエンジン音が聴こえた。 玄関ドアが開く音がして、洗面所で何か喋って笑っている声が聞こえる。 そして、リズムよく階段を上がってくるその足音に耳を澄ます。 「コンコン」とノックがされ、返事を待たずに和樹さんが顔を出した。 こうして二人きりで顔を合わせるのは、誕生日以来かもしれない。 彼はドアを閉め、何も言わずに中に入ってきてベッドの足元の方に腰を下ろす。 謝りたいことも、伝えなければいけないことも、聞きたいことも、たくさんあった。 けれど、そんなことよりも、ただただこの愛しい人に触れたかった。 身体を起こし、和樹さんを見据える。 俺は今、どんな顔をしているだろう。 「おいで、洋介」 その言葉に弾かれるように、和樹さんに抱きついた。 久しぶりの愛しい匂いに包まれ、一瞬で心が満たされる。 階下には二人がいて、部屋には燦々と昼下がりの太陽が降り注ぐ。 それでも止まらなかった。 きっと了也はこの状況を察して二階に上がってきたりは、しないだろう。 だからカーテンだけをしっかりと閉めて、自分から衣服を全て脱ぎ捨てた。 和樹さんは上品なスーツを着たままだったけれど、形を変えた下半身を押し付けてくるから、彼の興奮がちゃんと伝わってくる。 そういえば洸も、こうした身体の変化で、了也の気持ちを測ろうとしていたと、思い出した。 「何を考えているの?洋介。今は私のことだけを見ていなさい」 愛おしそうに俺を見つめ、吐息とともに唇を塞がれる。 口づけはすぐに深くなり舌が絡み合った。 俺の背を抱いていた手が、身体のラインをなぞるように滑っていけば、腰が疼いて余計なことは一切考えられなくなる。 階下から声がかかった。 「社用車の鍵、借りるぞー」 俺は慌てて「はーい」とだけ、少し上ずった大きな声で返事をした。 洸と了也が話す楽し気な声が聞こえ、玄関ドアがバタンとしまり、家の中は静かになった。 家に二人きりになれば、和樹さんもスーツを脱ぎ捨て、裸になる。 自然光で明るく、互いの身体も表情も良く見える部屋の中で、俺たちは求めあった。 一度目は我慢ができず、ただただ早急に欲をぶつけあう。 二回目はゆっくり、じっくりと。 気持ちよくて気持ちよくて、零れ出る高い声も抑えられなくて。 「もっともっと……」と貪欲に欲して、向き合って繋がった和樹さんの首に両手を回す。 身体のそこかしこの感覚が敏感になり、快楽の波が駆け抜けた。 「いい。あっ、もう、もう、ダメ……おかしくなりそっ」 「おかしく、なればいい、洋介、んっ洋介」 和樹さんが腰を使うスピードがあがる。 乱れた息遣いが、熱をはらみ艶っぽい。 突き上げられた腹の奥がうねって、和樹さんの全てを絞り取るようにギューッと収縮した。 「んっ」 小さく呻いて、和樹さんが解き放つ。 俺も白濁を撒き散らしたけれど、それより奥を襲った気持ち良さに震え、身悶える。 快楽が強すぎて生理的に流れ出た涙を、和樹さんの唇が吸い取ってくれた。 恐ろしいほどの気持ちのよさは全く収まらない。 まだ離れたくなくて「抜かないで」と震える声で囁く。 和樹さんが「洋介……」と名を呼び、痛いくらいに強く抱きしめてくれた。 俺はただただ甘い吐息を漏らし、目を閉じた。

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