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[ヘラジカ] 9.年に一度の個人面談

ヘラジカは一年に一度、管轄チームの一人一人と面談をすることになっている。 面談前には、アンケート用紙を配布し、必ず事前に記入をしてもらう。 このアンケートの設問が意地悪だと、皆に不評だ。 けれど、チラチラと本音が見えることがあるので、ここ数年続けている。 吉祥寺チームの面談は、了也が仕事休みの土曜に、近所のカフェへ一人ずつ呼び出して行うことになった。 朝食を取りながら、洸が「緊張する……」と胃の辺りを押さえている。 「洸くん、緊張なんて必要ないない。和樹さんとカフェでお喋りするだけだよ。別に叱られたり、何か評価をくだされるわけじゃないから、大丈夫」 「そうだそうだ、洸。緊張なんてしても損するだけだぞ」 「了也には、もう少し緊張感を持ってもらいたいくらいですけどね」 アンケートの回答は、互いに見せ合わない決まりだ。 ヘラジカも他のヘラジカと共有することはなく、秘密厳守となっている。 — 面談は了也から、スタートした。 「このアンケートの質問はなんだよ。あまりに酷いな。しかも無回答はダメってどうかと思うぞ。洸が何を書いたのか気になってしかたがない」 そう言いながら手渡されたアンケート用紙に目を通す。 五つの回答欄は全てが埋まっていた。 「設問①ヘラジカへの不満。『事務所に泊まる日が続くと洋介の機嫌が悪くなる。面倒くさがらず毎日帰ってきたらいい』」 「おい。目の前で声に出して読むのかよ」 「私が毎日吉祥寺へ帰らないのは、他チームへの示しがつかなくなるからですよ。②サーバルへの不満。『洸の部屋の盗聴器は業務を逸脱している。破棄しておいた』あぁ、気がついたのですね」 「気がついたのですね、じゃないよ。今後は定期的にチェックして見つけ次第、破棄するからな」 「そうしてください。③バクへの不満。『可愛すぎる』これはまた適当な回答ですね」 「可愛すぎて実家の犬猫に言うように「可愛いなぁ大好きだぞ」とか口にしそうで怖いんだよ」 敢えて犬猫と言っただろう了也に、好きになってしまったのですか、とは訊けない。 真剣な眼を見てしまえば、尚のことだ。 「それは恐ろしいです。気をつけてください。本当に」 「わかってる。だからこのところアルコールの摂取は控えているんだ」 「次。④拠点としている家への不満。『部屋の陽当たりが良すぎて、朝眩しい。遮光カーテンが欲しい』これは隣の家がコインパーキングになってからなんですよね。カーテンはすぐに手配させます。というか、こういう要望はいつでも受け付けていますから、洋介に伝えてください」 了也は「わかった」と頷く。 「さて最後。⑤チームへの不満。『今後、俺みたいな男を簡単にディンゴにするべきではない』これはどういう意味でしょう?」 「俺が従兄弟から依頼されたバクの本を作る為に、和樹さんを訪ねただろ。今年の初めのことだ」 「そうでしたね」 「それで俺は、従兄弟がバクの本を書こうとしていること、俺がそれを手伝うことをアンタに伝えた。従兄弟はバクについては和樹さんが日本で一番詳しいという認識で、だからアンタに話を訊いてきてくれ、と言っていて」 「当事者より詳しいわけはないんですけどね」 「いや、和樹さんのほうが詳しいよ。何しろ従兄弟は、獏に憑りつかれてるって認識なんだから。俺のことも、本を出すことで世の中の可哀そうなバクを救ってあげられるって口説いてきたんだぞ。なのにアンタは俺に「それならバクと仕事をするチームに入りませんか?」って誘ってきた。実際にバクと接したら考え方が変わるからって」 「まぁあの時は、本来ディンゴになるはずだった人が、父親が倒れたとかで急にキャンセルになり、私も困っていたんですよ」 「なんだよそれ。いや、俺は洸や洋介と接して、本を出版するべきではないって分かったし、バクを守ってやりたいって思ったから結果オーライだけどな」 「了也。私はね、意外と人となりを見抜く力があるんですよ。たまに人選ミスをするものの誰でも採用するわけではないですから、ご心配なく」 「そうか。とにかく洸のディンゴを、これからもやらせてもらいたいと思っている」 ジンジャーエールを飲み干して、了也は一軒家へと帰っていった。

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