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[ヘラジカ] 16.新しい仲間
前庭の片隅に真っ赤な彼岸花が咲き乱れる頃、ようやく秋良に新しいディンゴが見つかった。
健一よりずっと年上で、包容力のある山男のような人だ。
これで秋良を、しばらく暮らしていたフェネックの家からサーバルの待つ拠点へと、帰すことができる。
フェネックの家は組織内でも場所を明かしていない為、朝から私が車で迎えに行った。
秋良の希望で、いったん吉祥寺の家に連れ帰る。
前庭に車を停めると、洸が待ち構えていたように迎えに出てくる。
秋良は助手席を降りてすぐ後部座席に頭を突っ込み、風呂敷包みを降ろした。
「秋良くん、おかえり!」
「洸さん!ただいま。これ、フェネックが持たせてくれたお土産」
風呂敷包みは洸へと手渡された。
「重いっ。なんだろうこれ。あっ、それよりさ、新しいディンゴ、決まって本当によかったね」
「うん。この前、フェネックの家まで会いに来てくれたよ。背が高くて肩幅も広くて髭が生えてて、熊さんみたいな人なんだ」
二人は夏休み明けの親友のように喋り始めながら、うれしそうに家へ入って行く。
私がリビングに辿り着いた時には、洸によって風呂敷が解かれていた。
「うわっ、玉手箱みたい!」
「三段の重箱だよ。一番上と真ん中がここで食べる分、一番下は僕がサーバルに持って帰る分」
「へー、なんだろ。開けていい?」
覗き込んでいた洋介が蓋を開ければ、びっしりと大きなおはぎが並んでいた。
半分は粒あんで、半分はきな粉だ。
「おお!これは、美味そうだなぁ」
了也も身を乗り出し、今度は二段目の重箱を覗く。
「うわぁ、こっちは太巻き寿司だ。綺麗!」
「お腹空いたね。ご馳走になろうか」
洋介はリビングのローテーブルを布巾で拭き、皿と汁椀と箸を並べてくれた。
フェネックの家を出発する時、私から彼に電話を入れ「昼食は持ち帰りますから、汁物だけ用意しておいてください」と頼んであったのだ。
「ねぇ、フェネックの家ってどんなところだった?何才くらいの人?和樹さんは教えてくれないんだよね」
洋介が太巻きを食べる手を休めず、興味津々に、訊いている。
「言えないよぉ、僕だって口止めされてる。ミステリアスなのがいいんだって。でも庭に鶏がいて朝早くから鳴いてるくらい田舎。その鶏に負けないくらい元気なおばちゃんだったよ」
「やっぱり、おばちゃんって感じなのか。ぽっちゃりしてる?そしたらイメージ通りだな」
「そこは内緒」
「会ってみたいな」
そう言いながら、洋介はソファから立ち上がり「みんな、日本茶でいいよね」とキッチンへと向かう。
太巻きに続いておはぎを食べながら、秋良がしみじみ呟いた。
「またバクの仕事ができるのは、うれしいよ」
皆が「うんうん」と頷く。
私も、その通りだと思う。
厄介でしかない特性を、誰かに必要とされることは、毎日を過ごす上で大きな支えとなるはずだ。
迷いや、苦しみがあったとしても、チームで支えていく。
そうやって、毎日を暮らしていくのが、最適だと信じたい。
—
空が茜色に染まる頃。
秋良の新しいディンゴが、電車で彼を迎えにきた。
洸は興味津々で、ディンゴを観察している。
「優しそうな人そうだね」
「でしょ」
秋良と二人、コソコソと話をし、頷き合ったり、クスクス笑いあったりしていた。
ディンゴはそんな彼らを微笑ましそうに眺めつつ、了也に「ディンゴの先輩として色々話しを聞かせてほしい」と申し出る。
「それならば、帰る前にビールでもどうです?」
誘いに乗ったディンゴと洸と秋良は、了也に連れられ駅前の居酒屋へと出かけていった。
おそらく了也が、ただ吞みたかっただけなのだろう。
彼の風貌を見て、いい飲み友達ができたとでも思っているようだ。
それでも、新しいディンゴが皆に馴染むのに良い機会になると、洋介と二人で見送った。
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