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[ディンゴ] 2.休日らしい午後
祝日の午後。
昼過ぎまで惰眠を貪っていた俺が起きると、家の中には洸しかいなかった。
開け放たれた窓からは、どこか近所の小学校で運動会をしているBGMが微かに聞こえてくる。
「おはよ。洋介は?」
「サーバル仲間にフットサルに誘われたから出掛けるって」
「へー、珍しい。腹減ったなぁ。洸は昼飯は?」
「了也さんが起きたら二人で食べに行ってって、洋介さんが……」
無理ならいいんだけど……と遠慮を口にしそうな洸に、そんなこと言わせないよう即答する。
「よし、すぐ顔洗ってくるから。支度して待ってろ」
口角が上がってコクリと頷く洸が可愛く、頭をクシャクシャと撫でてしまった。
以前、和樹と面談をしたカフェに行き、ケイジャンチキンのランチプレートを注文した。
カウンター席に並んで座り、同じメニューを食べる。
洸は今読んでいるミステリーシリーズの話をし、俺はタウン誌の取材先で起こった些細な出来事を話題にした。
なんでもない話でも、洸は興味深そうに相槌を打ちながら訊いてくれる。
食後のアイスコーヒーを飲み終え、天気の良い午後をもう少し共に過ごしたく、恩賜公園まで歩いていく。
池の周りをぐるっと一周するように足を進めた。
「そういえば来月頭、予定通りタウン誌の仕事の有休が取れたぞ」
「ホント?いいの?忙しいピークは過ぎたの?一緒に旅行できるの?ホテルに泊まったりするの?」
足を止めて、矢継ぎ早に問い返してくる。
目の前にちょうどいい木陰と、池の方を向いたベンチがあり、俺がそこに座ると洸もつられるように隣に腰掛けた。
「あぁ、もちろん旅行に行ける。洸はどこに行きたい?どこでもいいぞ。三泊四日なら行こう思えば海外だって可能だ」
「海外はちょっと……。旅行慣れしていない僕にはハードルが高いです」
「そうか。じゃ、北海道か沖縄か。九州一周っていうのもいいな。レンタカー借りてドライブしながら、海を見たり山を見たり」
洸は「どこに行きたい」など具体的なことはイメージできないのか口にしない。
ただただ「とっても楽しみ」と頬を高揚させ、ニコニコと微笑む。
「じゃ、俺が決めて予約しておく。それでいいか?」
「うん。了也さんのオススメで。あっ……」
「なんだ?なんでも要望を言うといい。叶えてやる」
「飛行機には乗りたい。乗った事ないから」
「分かった。期待しておけ」
少し先のことを約束をしたのは初めてかもしれない。
そのことを噛み締めながら、しばらくそのまま二人で、池のカルガモを眺めていた。
—
一軒家に戻ると、門柱のところに誰かが立っていた。
待ちくたびれたように紙袋を地面に置き、所在なげにスマホに視線を落としている。
よく見ると、同じ仕事場で働く、違う部署の髪の長い女性だった。
「あれ?どうしました?」
声を掛けると、急いで紙袋を持ち上げ、慌てたように挨拶をしてくる。
「こ、こんにちは。私、この近くに住んでるんです。と、時々、このお宅から出掛けたり、帰ったりする了也さんを見かけていたもので、今日は思い切って、お、お裾分けをお届けに……」
差し出された紙袋の中には、良い香りの漂う大きなラフランスが三つ入っていた。
「いやいや、そんな申し訳ないですよ」
女性の雰囲気に面倒な気配を感じ取り、紙袋を受け取らないでいると、今度は洸の前に差し出し、押し付ける。
「どうぞ、貰い物ですので、皆さんで召し上がってください」
洸はチラっと俺を見たけれど、女性の圧に押され紙袋を受け取らざる得なかった。
すかさず女性は次の要求を口にする。
「あ、あのちょっと、了也さんにお話がありまして、少しだけお時間、いいですか?」
門柱の前で立ち話しているのも近所迷惑かと思い、渋々女性をリビングへと招き入れた。
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