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[ディンゴ] 5.ついに恐れていたことが
解毒を越えた行為は進んでいく。
指を増やし、洸の良い箇所をさわる。
洸の指はいつしかシーツを握り締めていて、そのうち身体がビクンと反応した。
「りょ、了也さん……」
「目、覚めたか?」
「ゆ、指、気持ちいい。もっと、もっと触って」
微睡の中、素直に甘え、イヤらしいことを口にする洸が可愛い。
だから後ろを触り続けながら、太腿に、へそに、鳩尾に、胸の突起にと、キスを落としていく。
彼の耳元まで唇が移動し、囁くように「もう、挿れたい」と伝えた。
コクリと頷いてくれる洸を、指を抜いてギュッと抱きしめた。
彼は指が抜けただけで堪らなく疼くのか「は、早くっ」と求めてくる。
両足を持ち上げ、スキンをつけた股間を押し付ける。
ぐっと押し込めば、よく解れたそこが俺を飲み込んでいく。
洸は回を重ねるごとに、より快楽を感じ、乱れてくれる。
嬌声をあげ「いい、いい」と俺に伝えてくれる。
もっともっと、そのイヤらしい顔を、感じている声を聞きたくて、俺も夢中で洸を揺り、腰を使う。
互いが互いを求めあって、セックスに溺れて、自分を解放して、深い快楽を手に入れて……。
「いい、いい、了也さん、そこ、あっ、あっ、きもち、いい、ねっ、あっ、すごい、いい」
「洸、洸、オマエの中、熱い、すげぇ、いい」
「りょ、了也さん、もっともっと、あっ、いい、ねぇ、好きっ、大好きっ!」
洸が「もっともっと」とねだるうちに、愛の言葉を口にした。
二人ともその瞬間は行為に夢中で、事の重大さに気が付かなかった。
一拍遅れて、彼はハッとした顔をする。
俺も慌ててその言葉が出た口をキスで塞いだけれど、洸の体温が急激に下がったのが分かった。
今のたった一言に、全ての愛が籠っていたのだ……。
俺の心に、愛されていると、ちゃんと伝わってくるほどに。
バクは、自分が発した愛も食べてしまう。
三時間後には、俺を想ってくれるこの愛も無になってしまうのだ。
俺は、泣き出した洸の、その後悔に満ちた顔を放ってはおけなかった。
「洸だけじゃない、俺も、洸が好きだ。愛しているよ。こんなにも、こんなにも好きだ」
そう言葉にし、奥へ奥へと突き上げて、セックスの続きをした。
何度も何度も、もう無理だと思うほどに、白濁を飛ばした。
「好き、了也さんが好き、この想いを消したくないっ」
洸は俺にしがみつき、喘ぎながら涙を流す。
体位を変え、片足を持ち上げ、また突き上げる。
「いい、きもちいい、怖いくらい、きもち、いい」
洸は腹の奥をビクビクと痙攣させ、縋りついてきた。
そして俺はもうスキンも付けず、洸の中に全てを注ぐ。
愛おしい人を、強くきつく抱きしめる。
そして洸は、気を失うように眠った。
腕の中の洸との今後を思うと、俺は寝付けなかった。
それでも時間が経つと、自分が何を憂いていたのかも分からなくなってきて、うとうと眠り夢を見た。
夢の中の俺は学生服を着ていて、高校生の時の彼女と通学路を歩いている。
彼女は突然立ち止まり、俺に人差し指を突きつけてくる。
「了也くんは私を好きなんじゃなくて、私に同情しているだけでしょ?」
「違う」
俺は首を振りながら、本当はそうだったかもしれない、と気がついてしまう。
彼女は陸上の選手だったけれど、不慮の事故にあい走れなくなり、部活を辞め、俺と同じ帰宅部になった。
自然と一緒に帰るようになって、なりゆきで付き合い始めたのだ。
「同情はもういいよ」
その言葉を放った彼女の顔が、いつの間にか洸に変わっていた。
—
目が覚める。
腕の中には洸がいたが、もう一度抱きしめる気にはならず、彼を起こさないようにベッドから這い出て距離を取る。
カーテンの向こうがどんなに明るくても、気分は暗かった。
好きではない、とはこういうことなのだ。
ときめかない。
感情が揺れない。
むしろこの部屋に嫌悪感を感じてしまう。
洸も目を覚まし、俺に見られるのが嫌なのか、慌てて昨晩脱いだ作務衣を着込む。
眼は合わせてこない。
「洋介には俺から話すよ」
そう洸に伝える。
彼はただコクリと頷いた。
俺はそれを見て部屋を出た。
キッチンには洋介がいた。
「おはよう。あれ洸は?」
「洋介、あのさ……」
洋介は俺の沈んだ声だけで、何かを感じ取る。
「やだ、なに。やめてよね……」
「俺たちは無になったよ」
ボウルで卵液を混ぜていた洋介は、ショックのあまりそれを落としてキッチンを派手に汚した。
ようやく彼から出た言葉は「和樹さんに電話して」の一言だった。
彼はそのままキッチンを片付けもせず、洸の部屋に入っていった。
自室に戻り和樹に電話を掛けると「すぐに行きます」とだけ返事があった。
和樹は一時間しないでやってきたが、俺は朝食も食べず逃げるように、自転車で仕事場へ向かった。
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