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[ディンゴ] 15.誕生日パーティ

クリスマスが終わると、駅前もあっという間に和の正月飾りに変わる。 タウン誌の仕事は今日が仕事納めだった。 ディンゴの業務も年内は明日で終了。 五月の大型連休も八月のお盆休みも営業していた組織の仕事も、さすがに年末年始は全チームが休暇に入るらしい。 夕食は和樹を含め皆揃っていたが、珍しく近所の惣菜屋の生姜焼き弁当だった。 「明日の準備が忙しくて」 洋介はそう言ったが、何があるのか俺はまだ把握できていない。 以前から仕事納めの日は丸一日空けておくように言われていた。 おそらく大掃除だろうと、詳細を聞こうともしていなかった。 この居心地の良い家の為なら、力仕事でも何でも手を貸すつもりだ。 弁当があらかた片付くと洋介はコピー用紙数枚の書類を、皆に配った。 「さて。このチームが組まれてもうすぐ一年。明日は初めての「騙し討ち」案件です」 「なんだそれは?」 「困っている人の為に一芝居打ちましょうってことね。俺はこういう案件、大好き。誰かの役に立てたって明確に思えるからさ。といっても翔がバクの時に一回と、助っ人で呼ばれて三回参加したことがあるだけだけどね」 「秋良くんも来ると張り切っていました」 「そう。明日は助っ人がたくさん来るよ。秋良のディンゴとサーバル、本部手塚さんとそのディンゴ、本部事務所の事務の女の子二名。それから和樹さんのお父さん、草上さんも先日来たばかりだけれどまた来てくれます」 「へー」 「開始時刻は夕方早めなので皆さんはパーティ終了後は帰宅され、草上さんだけが二階の和樹さんの部屋に泊まる予定」 「パーティ?」 「そう。手元のプリントをちゃんと見てよ。明日は了也さん、貴方の誕生パーティなんだから」 「え?」 言われてみれば確かに明日は俺の誕生日だ。 クリスマスと正月の狭間の日付は、子どもの頃から親にも忘れられがちで、自分自身でもここ数年、あまり意識せずに過ごしてきた。 「とにかく、プリントをよく読んで役柄を頭に入れておいて。仕事納めがこの仕事でよかったと思えるよう頑張りましょう。無事成功したら、気分良く年が越せるからね!」 俺はなぜか売れっ子推理小説家の役だった。 小説家先生の家で誕生パーティを行うという設定らしい。 相談者は大手書店に勤めている女性だという。 「どうして書店員が作家の誕生日会に来るんだ?」 大きな疑問を洋介にぶつけた。 「どうせ無になるんだから設定は曖昧でいいの。後から思い出しても記憶は鮮明に残らないから」 肝心なのは無にしたい対象者を、バクの前に連れ出してくることらしい。 和樹が俺の担当編集者役、洋介がパーティのウエイター役、洸は俺の弟役らしい。 残りの助っ人は皆、俺を祝いにきた客。 特に役柄の設定はない。 彼らには純粋にパーティを楽しんで美味しいものを食べて、と伝えてあるという。 相談者は三十代前半の女性。 三年前から付き合っている男の過干渉に耐えかね、何度か別れ話をするがしつこく食い下がってきて別れられない。 干渉は酷くなる一方で、休日はストーカーのように跡をつけられるという。 彼女から彼氏へは前もって「イケメン小説家の誕生パーティに行く」」と日時を伝えてあるらしい。 イケメンという単語が自分に掛かってくるのはどうかと思うが、ストーカー彼氏を煽った方が、彼女を追って必ず現れるだろうという作戦らしい。 彼女には既に恋愛感情が無い為、無にするのは彼氏の方のみということも、洸と確認し合った。 — パーティ当日の午後。 リビングに何個もキャンドルが灯された。 まだ外は明るいけれど、すぐに暗くなる。 そうすれば良い雰囲気が出るだろう。 カウンターテーブルが運び込まれ、アルコールを含む飲み物や、立食で食べられるオードブル、サンドイッチが並べられる。 料理は全て洋介渾身の手作りだ。 ローテーブルの上にはいつものように獏人形が鎮座していたが、砂時計は置いていない。 最初の客は秋良たちだった。 「お誕生日おめでとうございます」 サーバルが代表し、俺に大きな箱を渡してくれる。 仕事として偽のパーティをしているつもりだったが、プレゼントまで貰えるとは。 箱の中身は骨董品のようなデザインのテーブルライトだった。 「これは洒落てるな。とても気に入ったよ、ありがとう」 選んでくれたのは山男のようなディンゴらしい。 「センスいいな」 そう伝えれば「これからもよろしく」と握手を求められた。 彼とは今後、飲み友達として仲良くなれそうだ。 続いて手塚たちも、事務の女性たちも、めかし込んでやってきた。 皆ちょっとしたプレゼントを用意してくれており、恐縮してしまうが素直に嬉しかった。 カウンターテーブルの上には、パスタやピザ、パエリアが追加され、洋介がワインやシャンパンを勧めて回っている。 「お招きありがとう」 和樹の父親も到着し、超高級そうなワインをくれるから、嘘のパーティだと分かっているのかと心配になった。 壁の時計を見上げれば、まもなく今日の仕事の幕が開く時刻だ。

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