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第19話 海斗の危機
車に走り寄ると、
海斗が窓を拳でどんどん叩いていた。
顔が真っ赤で、汗が滝のように流れている。
目がうつろで、焦点が合っていない。
俺はドアを引いたが――
開かない。
「ロックしてないか!?」
海斗は必死に首を横に振った。
手で“違う違う”と弱々しく振る。
ドアのロックボタンも反応しない。
まるで車そのものが“閉じ込める気”でいるみたいだった。
胸がざわっとした。
嫌な気配が背中を走る。
ペンダントの石がぴかぴか光っていた。
しょうがない。
周りを見渡し、花壇の石を拾ってハンカチで包んだ。
前に動画で見たことがある。
小銭でも割れるらしいが、今は石しかない。
「海斗、離れてろ!」
ハンカチを振り回し、
遠心力でガラスの端を何度も叩きつけた。
バキッ――
ガラスが一部だけ砕けた。
そこから腕を突っ込み、
さらに叩き壊して穴を広げ、
海斗の腕を掴んで引きずり出した。
海斗はぐったりしていた。
呼吸が浅く、胸が上下していないように見える。
真夏日の車内に5分もいれば、
本当に命に関わる。
「海斗! どうしたんだよ。エアコンは!?」
「と……突然……止まった……
なんでか……分からない……
ドアが……ロックされて……
解錠できなくて……
俺……蒸し焼きに……なるかと……思った……」
息が苦しそうで、言葉が途切れ途切れだ。
俺は持っていた水を飲ませた。
それでも海斗はぐったりしたまま。
胸がぎゅっと締め付けられた。
怒りと恐怖が同時に込み上げてくる。
「海斗の携帯貸せ! お父さんに電話する!」
震える手で電話をかけた。
「もしもし、海斗のお父さんですか? とおるです。
海斗が……大変なんです。
スーパーの駐車場で……車に閉じ込められて……
エアコンも止まって……
窓を割って救い出したんですが……
呼吸が苦しそうで……」
父はすぐに言った。
「救急車を呼ぶ。そこから動くな」
電話を切る頃には、
周囲に買い物客が集まっていた。
スーパーの警備員が駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!?」
遅いよ……
心の中でそう思った。
5分ほどで救急車が到着した。
俺は壊れた車を警備員に預け、
「後日連絡します」とだけ伝え、
海斗の荷物を抱えて救急車に乗り込んだ。
病院に着くと、
一条総合病院の院長から連絡が入っていたらしく、
すぐに診察と点滴が始まった。
俺の胸はまだドキドキしていた。
なんで海斗までこんな目に遭わなきゃいけないんだよ。
怒りが込み上げて、涙が滲んだ。
2時間ほどして、海斗のお父さんが来てくれた。
「すまなかったね。海斗を守ってくれてありがとう」
その言葉に、張り詰めていたものが少し緩んだ。
車も業者が引き取ってくれたらしい。
助かった。
でも、これから車がなくなる。
大丈夫か……?
大学には父が連絡してくれたらしく、
「治るまで休め」とのことだった。
点滴が終わると、
車いすを借りてお父さんの車で海斗のマンションへ向かった。
「着いたらまた点滴をするからね」
そう言ってくれた。
良かった。
知らない病院に置いておくなんてできない。
また何かに襲われるかもしれないから、
海斗を一人にはできない。
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