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第21話 見守りウォッチ

 海斗の点滴が終わると、お父さんから「少し話がある」と言われた。 リビングテーブルの上には、 大きな腕時計のようなものが二つ置かれていた。 普通の時計より重厚で、どこか“この世のものじゃない”雰囲気がある。 「君たちに危険な思いをさせて申し訳ないと思っている。 ただ、解決にはまだ一か月はかかる。 だから、それまでこれを腕にはめておいてほしい。 これは時計じゃない。 君たちを見守るための信号を、私に直接届ける装置だ」 お父さんは真ん中のボタンを指差した。 「危険を感じたら、ここを押す。 音は鳴らないが、私には届く。 そして周囲の状況が私に“見える”ようになる。 話しかければ声も聞こえる。 AI眼鏡をかけていれば、そちらにもメッセージを送れる。 眼鏡から見えるものは、私にも見える。 いいね?」 「はい……ありがとうございます。 あの……こういう状態は、まだ続くんですね?」 「そうなんだ。 いろいろ手を回しているが、なかなか難しい」 お父さんの声は静かだが、 その奥に“焦り”のようなものが滲んでいた。 「車は……戻ってきますか? 俺、壊しちゃったから……」 「ああ、大丈夫だ。心配するな。 レンタカーを長期で借りた。 今、新しい車を買っても、また不具合があると困るからね。 フロントで鍵を預かっているはずだよ」 「ありがとうございます……」 「海斗はもう大丈夫だ。 このまま寝かせれば明日には元気になる。 大学には三日休むと伝えてあるから、心配しなくていい」 「はい。本当に……ありがとうございます」 お父さんを一階まで見送ると、 俺に少し微笑んで帰っていった。 その笑顔が、どこか寂しげに見えた。 レンタカーのシルバーの車はすでに届いていて、 鍵を受け取った。 海斗が元気になったら駐車場へ移動してもらおう。 部屋に戻り、海斗のためにお粥を作る。 さっき買い物をたくさんしたおかげで、 少しだけ気持ちが落ち着いた。 それにしても―― お父さんの持ってくるものは、どれも不思議だ。 この世に存在しないような機能ばかり。 ニュースでも聞いたことがない。 俺が無知なだけなのか…… いや、そんなレベルじゃない気がする。 ペンダントを見ると、今は光っていない。 ウォッチは枕元に置いたまま。 いつ身につければいいんだろう。 間違って押したら困る。 「とおる……」 海斗の声がした。 「どうした? お父さんなら帰ったよ」 「うん……わかった。 ちょっとトイレ行きたいから、手貸して」 「バケツ持ってこようか?」 「ダメだよ……いいから手貸して」 「はいはい」 肩を貸してトイレへ連れて行く。 しばらくしてドアが開いた。 「寝室に戻る前に、お粥食べる? 椅子に座る? それともベッドで?」 「ああ……分かんねえ……寝るよ……」 「わかった。じゃあベッドに持っていくね」 「悪いな……」 ベッドでお粥と梅干し、玉子豆腐を食べさせた。 水のペットボトルも二本置いた。 「海斗、果物もゼリーもあるよ」 「ありがとう……でも今はいい……寝る……」 「うん。おやすみ」 片付けを終え、シャワーを浴びた。 そして海斗の隣に横になった。 枕元には、お父さんから渡されたウォッチ。 これが、俺たちの命綱なんだろうか。 胸の奥がざわざわしてなかなか寝付けなかった。

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