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第22話 一か八かの賭け
翌朝、海斗は少し体調が戻ったようだ。
「お早う。あのね、お父さんが三日間休むようにって言ってくれて、大学にも連絡してくれたよ」
「そうなんだ。助かったけど、試験どうしよう‥‥‥、あと1日で終わるのにさ.....」
「そうだね、どうしよう。俺だけ行ってもいいけど、でも賭けだよ」
「眼鏡だけで何とかならないかな?」
海斗が最後の粘りを見せてる。
俺を行かせたいらしい。
「うん、じゃあ、俺行ってみるよ。失敗したらごめんな」
「良いよ、その時は諦めて追試を受ければいいんだからさ。気にするなよ」
俺は試験の準備をして、お握りを一個だけ作って荷物に入れた。
海斗がそっと起きてきて送ってくれた。
「頑張って来いよ」
「うん、わかった、行ってきます」
そして教室のドアを開いた。
大勢の学生が揃っていた。
なんだか手がもう震えて来た。
自信なんてあるわけない。
俺の頭だぜ。無理だろ。
でも今日はやらないといけない。
よりによって一番難しいと海斗が言った、
「神経内科」の試験だ。
席について、ペンダントの確認。
メガネをしっかり位置につける。
そして筆記試験が始まった。
眼鏡が文章を読んでポイントの文字を反転するのだけが頼りだ。
緊張でシャーペンを握り締めて芯が折れてしまった。
いかんいかん、握り直す。
1問から難しいじゃんか。
第1問:運動麻痺の病変部位を答えよ。
眼鏡が反応する。
青反転:錐体路
赤反転:内包後脚
「……よし」
俺は書き込んだ。
その調子でどんどん眼鏡が教えてくれた。
マークシートならどんどん埋められた。
しかし、最後の方が難問になっていた。
でも難問だと思っただけで息が上がった。
それは記述式になっていた。
第7問:小脳性失調と前庭性失調の鑑別点を述べよ。
ええ?‥‥‥わかんねえよ。
眼鏡の反応が遅い。
青反転が揺れる。
赤反転が一瞬消える。
「え……なんで?」
視界がふっと揺れた。
緊張で手が震えるし、
海斗がいないのがつらい。
全部、自分でやらなきゃいけない。
胸がドクンと鳴る。
頭がパ二くった!
待てよ、落ち着け、海斗と勉強したじゃないか!
目をつぶった。
そうだ!小脳性失調は‥‥‥、
歩行は左右にふらつき、方向性が一定しない。
それから指鼻試験・膝踵試験で測定障害。
眼振は多方向性。めまいは比較的弱い。
そうだ!俺思い出したじゃないか。
あとは、前庭性失調は‥‥‥、
めまいが強く、歩行は患側へ偏る。
眼振は確か、一方向性だったな。
あとは、嘔気・嘔吐を伴いやすい。
測定障害は軽い。
良し!!よくやった。
”とおる頑張れ”と自分に声を掛けた。
その時、眼鏡が点いたり消えたりしながらも、なんとか復活した。
そこへ、眼鏡にテロップが出た。
え? お父さんからだ。
「とおる君。その調子だ。俺は見てるよ。頑張れ」
だって‥‥‥ちょっと肩の荷が軽くなった気がした。
試験中なのに、ふふとちょっと笑い声が出てしまった。
で、次の問題を読むと、
またテロップが出た。
「その問題は“交代性麻痺”がキーワードだ。
視線を下げて、問題文をもう一度読め」
赤反転がゆっくり戻る。
「……あ、そうだ……!」
俺は書き込んだ。
そうやってなんとか終わった。
背中がぐっしょりと汗で濡れていた。
あ~着替えを持ってきてない‥‥‥。
すべての試験が終わって、
俺はボロボロになって帰宅した。
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