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第25話 海辺にて
俺達は1泊で伊豆の海に見に行くことした。
宿泊先は西伊豆の海辺に面した小高い丘にある温泉ホテルにした。
なんか広々としたところに行きたいという意見でバシッと決まった。
俺は東京に来て以来、旅行なんて行ったことがなかった。
それ以前だって、旅行と言えば修学旅行くらしか経験がない。
元より貧乏だから、毎日の生活をいかにお金を使わないで過ごすかということが大事だった。
旅行に行きたいなんて考えたこともない。
今回は全部海斗のおごりだ。
毎日頑張ってくれたお礼なんだって。
すっごくうれしい。
着いてみると、そこは岬の先端にある小高い場所に建つ、
大きなマンションのような観光ホテルだった。
駐車場の端からふたりで見る果てしなく見渡せる海は、地平線が270度は見えそうな気がした。
朝陽はどんなにきれいだろう。
そして夕陽自慢と宿のキャッチフレーズにあったように、沈んでいく夕陽が最後まで見られるらしい。
なんて贅沢な場所だ。感動した。
来た方向を見れば富士山も見えるし、めちゃくちゃ効率のいい場所だ。
日本一深いと言われている駿河湾の色は、青というより群青色だった。
それに沖を行交う船がいっぱい見られた。
結構、海って交通が激しいんだな......。
小さな白い漁船もあちこちに見えたし、タンカーのような大きな白い船も沖をゆっくり進んでいるように見えた。
驚いたのは、自衛隊かと思えるカーキ色の物々しい巨大な船が進んでいたことだ。
「あれはなにをしてるんだろう?」指差して海斗に尋ねた。
白いカモメが漁船のまわりの空を、くるくると回っているように見えた。
「ああ~、あれは魚目当てかな?
漁船が網を引く時に中の魚をカモメが狙ってるんじゃないの?
頭いいよな」
ニヤッと笑っていた。
二人でゆっくりと海を眺めていた。
「すごいねえ~。きれいすぎてなんと言っていいか分からないよ」
「うん、そうだな。解放されるよ」と海斗の言葉を聞くと、
普段の生活がいかに追い詰められているかがわかる。
なんだか胸がぎゅっと締め付けられるような気がした。
”おい、泣くな。こんな景色の良い所を見てるんだから”と
自分に言い聞かせて、滲んだ涙を横向いてさりげなく手で拭った。
ホテルに入ると、海斗がチェックインをして、
案内された部屋は座敷が二部屋もある贅沢な作りの和室だった。
部屋が上階にあって、これまた海の景色が素晴らしかった。
俺達は真っ先に温泉に入ることにした。
”明るいうちに入った方が海がきれいに見える”って仲居さんが教えてくれたんだ。
”夜だと真っ暗なだけなんですよ~”と、申し訳なさそうに言われた。
そりゃそうだ、海しか見えないんだから。
露天風呂は屋上にもあるらしいが、先に教わった波打ち際の露天風呂に行くことにした。
俺達は真っ先に洗い場でお互いの身体を洗い合った。
他に誰もいなかったからいいか。
そして、遠くの海原を見ながら露天風呂に入る。
波の寄せては返す音を聞きながら、のんびりと湯に浸かった。
最高だ......。
両手を広げて湯に浸かってればいいのに、
海斗が片手を握って来た。
なんで?
それにしても手を差し出すと、
波がかかるんじゃないかと思うくらい海が近い。
ここは嵐が来たら入浴禁止の露天風呂だな。
「いや~、暑いから西陽がきついねえ」と片手で目を覆っていた海斗。
「うん、タオルを頭から被れば平気だよ」
俺はタオルで頭を覆っていた。
「そうだな。今が最高なんだからさ、気分いいよ。これまでの慰労会だよ」
海斗にそう言われるまでもなく、俺は感謝の気持ちでいっぱいだった。
「ふ、そうだね。最高だよ。海斗ありがとうね。こんないい所に連れて来てくれてさ」
「いや、全然足りないさ。とおるがいなかったら、俺はアウトだったよ」
そんな言葉を漏らした。
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