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第27話 恋人岬

 翌朝早く起きた俺たちは、屋上の露天風呂に行くことにした。 この広々とした世界は、まるで独り占めしているかのような解放感だった。 最高の景色だ。 屋上なのに露天風呂は岩で組まれていて、しかも半分は日陰になるように、 上には木を組んだ藤棚のような日よけが設えてあった。 これ、抜群にいいね。 こんな暑い日にはぴったりだよ。 俺たちはその日陰で、のんびりと湯に浸かっていた。 「これ、うちにあったらいいな」 海斗なら、本当に注文しそうな気がした。 多分、実家のことを言ってるんだろうなあ。 こういう時に、世界観が違うって思う。 最初の頃はいちいち驚いていたけど、 最近はあまりの違いに笑ってしまうだけだ。 俺もだいぶ慣れてきたな。 部屋に戻ると、座卓の上にまた朝食がずらりと並んでいた。 朝食って、こんなに並ぶんだ。 「え~、すごいねえ~」 俺はそれしか言えなかった。 一人用の小さなコンロに網が乗せてあって、小さなアジの干物が置かれていた。 これで焼き立てを食べるのか。仲居さんが火をつけてくれる。 へえ~、と思っていると仲居さんが説明してくれた。 「地元の食材で作りました。 こちらは中伊豆のわさびで作った、わさび漬け・わさびのり・わさびの茎の三倍酢でございます。 かまぼこも地元のものです。あとは納豆、地元野菜の煮物、揚げ豆腐。 すべて伊豆産です。お味噌汁の具はあさりとふのりでございます。 どうぞごゆっくりお召し上がりくださいませ」 俺は凄すぎて絶句していた。 海斗がわさびのりをご飯にのせて食べていた。 「それ旨い?」 「超イケる」 それからは、海斗を見ながら箸を進めた。 それが楽しくてならない。 満腹したのに、食後の果物が出てきた。 あー無理だあ~。 でも頑張って食べた。 もう動けない。身体が二つ欲しい。 チェックアウトしてホテルを出ると、 「あのさ、この道を戻ると途中に恋人岬って看板があっただろ? あそこ行こうよ」 「え?」 海斗に言われて、思わず笑ってしまった。 恋人岬って、俺たちが行っていいの?って思ったんだよね。 でも海斗が行くなら、俺はどこでもいいんだけどさ。 1時間くらいで到着すると、駐車場から遊歩道が続いていた。 最初は簡単に考えていたが、展望台までは上り下りや階段があって大変だった。 食い過ぎで重くなった身体には堪えた。 海斗が、へばり気味の俺の手を引っ張ってくれた。 でも、あまり人に見られたくなかった。 だって俺は身長182㎝。 海斗は173㎝。 俺のほうが大きいのに、小さいほうの海斗に手を引かれてるなんて、おかしいだろ? なんだかんだとぼやきながら、ようやく展望台に着いた。 さっきまで満腹だったのに、上り下りで完全に疲れてしまった。 「もう疲れた。あそこでソフトクリームでも食べようよ」 展望台の店のソフトクリームが、救世主に見えた。 俺が甘えると、海斗が買ってきてくれた。 店先のベンチで食べた。 冷たくてうまくて、おかげで生き返った。 海斗はアイスコーヒーを飲みながら、 俺がソフトクリームに夢中なのを笑って見ていた。 こんな時の海斗は、大好きだ。 「恋人同士は、あそこで鐘を鳴らさないといけないんだよ」 海斗がそんなことを言うなんて……。 俺って恋人?? 「それ、俺と海斗が鳴らしてもいいの?」 「当たり前じゃん。他に誰がいるんだよ」 両手で顔を隠した。 ――なんだか恥ずかしくて駄目だ。 ……顔が真っ赤になった気がする。 そっと片目を開けてみたら、目の前に海斗の顔があった。 「ひっ! なに覗き込んでんだよ~」 「見物だろ? 今見ないでいつ見るんだよ」 「もう~知らない。行くよ」 自分から行くと言ってしまったから、 結局そこで鐘を鳴らすことになってしまった。

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