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第29話 エレベーターにて
旅行から帰って2週間が経った。
海斗との生活は静かだけど、俺にとっては宝だ。
朝から晩まで、食事以外はずっと勉強に打ち込んでいる海斗。
夏休みなのに休まない。医大の3年生は一番きついんだって。
「全部覚えないと、4年になったら臨床が始まるから逃げ場がなくなるんだよ」
ふ~ん、そうなんだ。
だから俺も、家事をする以外は海斗のそばで勉強している。
文学部の教科書を開いて、戻った時に困らないように頑張る。
そろそろ食材がなくなるな。
お昼ごはんは残り物を集めて、チャーハンとスープとサラダを作った。
二人で食べて、午後は買い物に行くと言うと、
「俺も運動がてら荷物持ちに行くよ」
「そう?ありがとう」
俺は絶対に断らない。
海斗を一人にできないから、いつも二人で行動する。
スーパーは駅前にある。
ここは本当に便利だ。買い物に困ることはない。
二人で食材やおやつ、パンや果物を選んで袋がいっぱいになった。
「ありがとうね」と感謝を伝えて、2袋を持ってもらった。
ふふっ、俺はトイレットペーパーを下げてるから嵩張ってるんだよね。
小柄な海斗のほうが大荷物。ごめんね。
マンションに帰ってきた。
エレベーターに乗る。
25階だ。すごいよなあ……いつも思う。
親は知らない。
ただ「先輩の友達と一緒に住む」とだけ言ってある。
そして25階に着いた――降りる気満々。
……なのに‥‥‥ドアが開かない......。
そして天井のライトがバチっと消えて、非常灯に変わった。
「え、え、なんで?」
海斗も顔色が変わっていた。
「海斗、このエレベーターどうしちゃったの?なんでドアが開かないの?」
「落ち着けよ。なんかの故障かもしれないけど……電気が消えて、今は非常灯になってる」
エレベーター内が薄暗くて、
俺は恐怖で息が上がり、震えてきた。
思わず海斗に抱きついた。
海斗が非常ボタンを押す。
……でも全然応答がない。
「どういうこと?」
俺のペンダントを見ると、ぴかぴか光っていた。
「海斗、ペンダントが光ってるよ」
「まずいな……じゃあ全部の階のボタン押してみるか」
1階から最上階まで全部押した。
でも、まったく反応がない。
怖くて怖くて、俺は座り込んだ。
もう立っていられなかった。
海斗がドアをバンバン叩いて、大声で叫ぶ。
「誰かいませんか!」
……でも、シーンとして返事がない。
「海斗、お父さんにヘルプのボタン押すね」
バッグから眼鏡を出してかけた。
腕のウォッチのボタンを押す。
……でも返事がない。
「海斗、お父さんから返事がないよ。どうなってるの?」
恐怖で唾が出なくなっていた。
口の中がカラカラだ。
とりあえず買い物袋からドリンクを出した。
「海斗、なんか飲もうよ」
「ああ、それがいいね。とにかく助けが来るまで頑張ろう」
「うん……そうだね。でも、このエレベーター、真っ逆さまに落ちたりしないよね?」
「変なこと言うなよ。ここは最新のタワマンだぞ。
丈夫にできてるから、その心配はないよ」
「うん……でも、お父さんから返事がないね。どうなってるの?」
海斗が携帯で電話をかけていた。
「あー……あのさ、ここ“圏外”になってる……」
海斗が眉間にしわを寄せた。
「へっ?何言ってるの?」
急いで俺の携帯を見る。
「あ、同じだ!どうしよう~!」
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