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第32話 エレベーターにて・4

  海斗が焦った声で聞いてきた。 「ねえ、おばさんはなんて言ってるの?」 「あのね、もう消えちゃったんだけど……お父さんからの伝言を伝えに来たんだって。それとね、あんまり詳しいことは言えないって。下っ端なんだってさ」 「ってことは、父さんは上のほうの人ってこと?」 「あら、そうなるね。すごいねえ」 「いや、感心してる場合じゃないでしょう?」 「そうだった。とにかく“もうちょっと頑張れ”って言ってたよ」 「そっか……じゃあしょうがないな。粘るしかないか」 「ねえ、お腹空かない?」 「空いた」 「なんか食べようよ」 買い物袋を調べると、今日はおいしそうな稲荷ずしを二人分買ってあった。 「ねえ、お箸はないけどいいよね?」 「うん、いいよ」 二人でくっついたまま食べた。 「これ、おいしいよね?」 「ふ、とおるって結構たくましいよな。こんな時でも味が分かるんだもん」 「というかさ、開き直るしかないんだよ。これが最後のご飯かもしれないから、しっかり食べようよ」 「わかったよ」 「あと何があるの?」 「えっとね、ハムもあるし、トマトもあるし、きゅうりもある。パンとチーズもあるよ。あとは果物だね」 「ふ~ん。とりあえず、なくなるまで食べよう。体力つけないとさ。外の世界に繋がってないみたいだし」 「そうだね。こういうの、なんて言うのかなあ?」 「とりあえず……映画の撮影中だと思おうよ」 海斗がナイスアイデアを出した。 「賛成」 「あなたは男優ね。俺は女優になるよ」 俺も負けないようにアイデアを出した。 「なんでとおるが女優なんだよ」 「だって彩りがないと寂しいでしょう?」 「まったく……マジでとおるはたくましいよな。いっそとおるが医者になったほうがいいかもよ」 「やだよ、無理だもん。頭悪いし」 「え? とおるって頭悪くないよ。なんで悪いって思ってるの?」 「ナイショ。俺だけが知ってるの」 「ふ~ん、そうなんだ」 「ねえ、稲荷だけだと喉が渇くからさ、トマト半分ずつかじらない?」 またナイスなアイデアを思いついた。 「いいよ。野菜は食べないとだめだよね」 そして二人で交互にトマトをかじった。 その後は手を拭き、トイレを済ませ、非常用の“拭くタイプの歯磨き”を使ってみた。 「俺たち、なんか避難生活だな」 「うん、そうだね。もうどうしようもないよ。こうなったらさ」 「俺どうなってもいいよ。海斗と一緒だからさ」 「また告ってるし……」 「ふふふ、しょうがないよ。本当のことだもん」 そしてまた横になって、抱き合って一緒に眠った。

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