38 / 65

第38話 海斗サイド・俺から離れて

エレベーターを出た時、お互いに入れ替わっていた身体が元に戻った。 その瞬間、俺は爆発した。 閉ざされたエレベーターの中で丸三日間、 とおるはずっと「抱いて……」と言って俺の腕の中にいた。 寂しがり屋で、怖がりで。 俺は死んでも絶対にとおるを守ろうと思った。 かわいくてかわいくて、どうしようもなかった。 もっと唇にキスしたかったけど、相手が自分の顔では出来なかった。 玄関の鏡の前でお互いを確かめ合った。 「確かに元に戻ったよね?」 と抱き合って喜んだ。 戻った以上は、我慢できなかった。 それから三日間、ずっと、とおると抱き合った。 何回も何回もとおるを啼かせた。 * そしてひと心地ついた時、とおるはベッドにいなかった。 探すと、自分の部屋で荷物をスーツケースに入れていた。 血の気が引いた。 今からようやくずっと一緒にいられると思ったのに——。 「今、何をしている?」と怒鳴った。 気でも狂ったのか? 「離れるんじゃないよ。気が散らないように、他の場所で待ってるね。 国家試験に受かったら迎えに来て」 とおる……なんでそこまで自分を犠牲にするんだ。 俺のせいで……涙が止まらなかった。 でも、とおるが悲しそうに泣くから、その決心は覆らない。 そう悟った。 とおるにこんなに強いところがあったんだ……。 俺は上着を掴んで「アパートを探すから」と言って飛び出した。 とおるに任せたら、また大学から遠くて駅から歩いて15分もかかるアパートにするに決まってる。 俺が決めてやる。 大学から電車1本で行ける場所。20分以内。駅から徒歩5分。 前が西向きで暑かったから、今度は南向き限定にした。 そして3時間くらいかけてようやく見つかった。 なかなかいい所だったけど、家賃が9万だった。 それで不動産屋と交渉して、毎月俺が4万を出すことにして、 本人には知らせないでくれと頼んだ。 不動産屋は慣れているのか、 「はいはい」と簡単に了承してくれた。 決まったことでホッとして、また涙があふれてきた。 ここでとおるは3年間も一人で暮らすんだと思った。 街の路地に隠れて泣いた。 父にとおるの住所が変わることを言わないといけない。 少し落ち着いて電話した。 「父さん、とおると身体が戻ったのに、俺から離れるっていうんだ。 気が散るから別の場所で待つんだって。住所をメールで伝えるから頼みます」 「海斗、お前大丈夫か?」 そう言われて、電話で泣き崩れた。 「父さん、俺は大丈夫じゃない。つらい。 とおると離れたくない……どうしよう? っ……う」 しばらく父は黙っていた。 そして、「とおる君の気持ちをありがたく受けなさい。 自分を犠牲にしているんだ。それも愛情だよ。行かせてやりなさい」 「はい、わかりました」 電話を切ったあと、またしばらく泣いていた。 でもトラックを手配しないといけない。 電気も水道も連絡しておこう。 少しでも、とおるが楽になるように。 すべて終わると、また切なくなった。 もう夜になってしまった。 とおるを待たせてる。 せめて今夜だけでも一緒にいたい。 急いでマンションに帰った。 帰ると、とおるが最後の手料理を作っていてくれた。 たまらず、とおるを抱きしめた。 この身体が俺からいなくなるのか? ぎゅっと抱きしめた。 もうこれで終わりなんだと思うと、 せっかくの美味しい料理がなかなか喉を通らなかった。 そして一晩中、とおるを抱いてしまった。 切なくて、お互いに泣いてしまった。 「なんで泣くくらいなら出ていくんだよ。 俺はとおるがいても合格するから行かないで」 でも、とおるはうんと言ってくれなかった。 やっぱり悟った。 とおるは強い。 弱いのは俺だ。

ともだちにシェアしよう!