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第38話 海斗サイド・俺から離れて
エレベーターを出た時、お互いに入れ替わっていた身体が元に戻った。
その瞬間、俺は爆発した。
閉ざされたエレベーターの中で丸三日間、
とおるはずっと「抱いて……」と言って俺の腕の中にいた。
寂しがり屋で、怖がりで。
俺は死んでも絶対にとおるを守ろうと思った。
かわいくてかわいくて、どうしようもなかった。
もっと唇にキスしたかったけど、相手が自分の顔では出来なかった。
玄関の鏡の前でお互いを確かめ合った。
「確かに元に戻ったよね?」
と抱き合って喜んだ。
戻った以上は、我慢できなかった。
それから三日間、ずっと、とおると抱き合った。
何回も何回もとおるを啼かせた。
*
そしてひと心地ついた時、とおるはベッドにいなかった。
探すと、自分の部屋で荷物をスーツケースに入れていた。
血の気が引いた。
今からようやくずっと一緒にいられると思ったのに——。
「今、何をしている?」と怒鳴った。
気でも狂ったのか?
「離れるんじゃないよ。気が散らないように、他の場所で待ってるね。
国家試験に受かったら迎えに来て」
とおる……なんでそこまで自分を犠牲にするんだ。
俺のせいで……涙が止まらなかった。
でも、とおるが悲しそうに泣くから、その決心は覆らない。
そう悟った。
とおるにこんなに強いところがあったんだ……。
俺は上着を掴んで「アパートを探すから」と言って飛び出した。
とおるに任せたら、また大学から遠くて駅から歩いて15分もかかるアパートにするに決まってる。
俺が決めてやる。
大学から電車1本で行ける場所。20分以内。駅から徒歩5分。
前が西向きで暑かったから、今度は南向き限定にした。
そして3時間くらいかけてようやく見つかった。
なかなかいい所だったけど、家賃が9万だった。
それで不動産屋と交渉して、毎月俺が4万を出すことにして、
本人には知らせないでくれと頼んだ。
不動産屋は慣れているのか、
「はいはい」と簡単に了承してくれた。
決まったことでホッとして、また涙があふれてきた。
ここでとおるは3年間も一人で暮らすんだと思った。
街の路地に隠れて泣いた。
父にとおるの住所が変わることを言わないといけない。
少し落ち着いて電話した。
「父さん、とおると身体が戻ったのに、俺から離れるっていうんだ。
気が散るから別の場所で待つんだって。住所をメールで伝えるから頼みます」
「海斗、お前大丈夫か?」
そう言われて、電話で泣き崩れた。
「父さん、俺は大丈夫じゃない。つらい。
とおると離れたくない……どうしよう? っ……う」
しばらく父は黙っていた。
そして、「とおる君の気持ちをありがたく受けなさい。
自分を犠牲にしているんだ。それも愛情だよ。行かせてやりなさい」
「はい、わかりました」
電話を切ったあと、またしばらく泣いていた。
でもトラックを手配しないといけない。
電気も水道も連絡しておこう。
少しでも、とおるが楽になるように。
すべて終わると、また切なくなった。
もう夜になってしまった。
とおるを待たせてる。
せめて今夜だけでも一緒にいたい。
急いでマンションに帰った。
帰ると、とおるが最後の手料理を作っていてくれた。
たまらず、とおるを抱きしめた。
この身体が俺からいなくなるのか?
ぎゅっと抱きしめた。
もうこれで終わりなんだと思うと、
せっかくの美味しい料理がなかなか喉を通らなかった。
そして一晩中、とおるを抱いてしまった。
切なくて、お互いに泣いてしまった。
「なんで泣くくらいなら出ていくんだよ。
俺はとおるがいても合格するから行かないで」
でも、とおるはうんと言ってくれなかった。
やっぱり悟った。
とおるは強い。
弱いのは俺だ。
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