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第39話 引っ越し
翌朝9時、トラックがやって来た。
何もかも海斗が手続きをしてくれたし、
俺には一切お金を出させなかった。
本当にありがとうね、と心の中で感謝した。
荷物はあっという間に業者さんがトラックに積み込み、
海斗が車で俺をアパートへ連れて行ってくれた。
そこは大学から直通の電車で15分くらい。
アパートまでは徒歩5分だって。
「え? こんなにぎやかなとこ、高いんじゃない?」
「心配するな。5万円で見つけたからさ」
着いてみると、ここは“アパート”じゃないと思った。
こぎれいで、小さなマンションのようだった。
部屋に入るとワンルームじゃなくて1DK。
ちゃんと料理ができる普通の台所がついていて、
バルコニーも前よりずっと広い。
「え? こんなとこ高いに決まってんじゃん」
海斗に抗議した。
「いや、5万円だよ。その代わり、ここは3年以内に退去しないといけないっていう“訳あり物件”なんだよ」
「え、そうなの?」
海斗が頑として決めているから、それ以上は言えなかった。
南向きで日当たりも良さそうだし、
建物の周りにゆとりがあって風通しもいい。
なんだか勿体ないくらいだ。
前のアパートが西向きで暑かったから、
気を使ってくれたんだね。
引っ越しは終わり、業者さんは帰っていった。
見守りウォッチと眼鏡は海斗に返した。
ペンダントも返そうとしたけど、
お父さんから「ペンダントだけは持つように」と言われたんだって。
「海斗、こんなに何でもかんでもやってもらっちゃって、本当にありがとうね。うれしかったよ」
また海斗が俺をぎゅっと抱きしめた。
「とおるは、俺がいなくてもやっていけるのか?」
「うん」
そう頷くしかなかった。
他にどんな返事があるっていうの?
膝が崩れそうになる。頑張れ、オレ。
そして表の道路で見送った。
駅まで来ちゃだめだって。
海斗と別れて、しばらく家で泣いていた。
荷物がすべてが色褪せて見えた。
俺の心も色がなくなった……。
*
翌日、荷物をほとんど片付けた俺は大学へ行った。
1学期を休んでしまって、取り戻せるか学生課に相談した。
そしたら文学部は単位制だから、
2学期から3学期にかけて集中して単位を取れば、
みんなと同じように3年に進級できると言われた。
それで、とりあえず復学届けを出した。
あとは大学のポータルサイトで履修ガイダンスを見て、
シラバスで授業を選べばいいそうだ。
その後、復学が認められたので、履修申告をオンラインで済ませた。
2学期に取れる上限があったから、全部を取り戻すのは無理だったけど、
あとは3学期に回せるから、なんとかみんなと一緒に3年に進級できそうな見通しが立った。
本当に良かった。
俺も海斗に負けないように、めちゃくちゃ頑張る。
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