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第51話 事故

 ようやく免許が取れた。 あの後は、どの試験も無事にクリアした。 はあ……。 そしてワードの履歴書に 「普通自動車運転免許(AT限定)」 と書き足した。 うれしい。 悪夢みたいな教習所だったけど、 この一枚の免許証には、俺の血と涙と冷や汗が全部染みついている。 これを財布に入れる瞬間が、どれだけうれしいか―― 言葉にはできない。 そして免許騒動が落ち着いた頃、レセプトの結果が届いた。 見事パスした!! うれしくて、部屋中で「やったー!」と叫んで踊った。 ああ、快挙だ。そうとしか言えない。 落ち着いてから、すぐ履歴書に書き足した。 それをコーヒーを飲みながら、一時間くらい眺めていた。 もうこれ以上、書き足すものはない。 あとは卒論だ。 今までバイトと資格試験で時間を取られていたから、みんなより遅れていると思う。 これからしばらくは、卒論に専念する。 バイトは一旦休む。 卒論に全力を尽くす。 みんなに出来具合を聞くと、半分はもう出来てるって言うんだよな。 ああ……俺、遅れすぎだよ。 図書館で資料を読みながら、ひたすら打ち込んだ。 そしてゼミの帰り、うちの大学のちょっとした名物―― 吹き抜けになっていて、幅が広い大きな階段がある。 二階分くらいあって、上り下りが大変なやつ。 そこで俺は、魔が差した。 「とおる」と呼ばれて、振り向こうとした瞬間、 足がうまく動かなかったのかもしれない。 そのまま、真っ逆さまに下まで落ちた。 その瞬間は「しまった!」と思っただけ。 その後の記憶は、まったくない。 どうなったんだろう。 ただ、階段の下で、前世のおばさんが俺を抱きかかえてくれていた。 俺は意識がないらしい。 それを、階段の上の方から“見ていた”。 みんなが一斉に駆け降りてきて、俺を取り囲んでいた。 誰かが救急車を呼んでいた。 不思議だ……俺はそれを眺めていた。 どうなってるんだ、俺。 救急車が来て、俺はストレッチャーに乗せられて運ばれていった。 なのに、階段の上には“取り残された俺”がいた。 そこから先の記憶はない。 そして、ふっと戻った気がして、 周りのざわざわした気配は分かったけど、 耳が遠くて、目も開かない。 何か話しかけられていたけど、答えられなかった。 ただ、手の感触だけはあった。 誰かの温かい手の温度を感じた。 俺の手を握っていてくれたんだ。 そして目が覚めたら、病室にいた。 「とおる、大丈夫か?」 目だけそっと向けると、いとこの万里生だった。 なんで……? あ、緊急連絡先を万里生にしていたんだ。 万里生はT大出で、俺をこの大学に合格させてくれた頼りになるいとこだ。 「とおる、おじさんとおばさんには言ってないからな。 一週間くらい入院するらしいけど、命に別状はないし……いいよな?」 小さくうなずいた。 「入院費の預かり金五万円は払っておいたから、心配するな。 残りは払えるか?」 またうなずいた。 貯金は、まだ少し残っていた。 「ありがとう」 それだけ言ったら、また眠ってしまった。

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