53 / 65
第53話 クリーム
翌朝、また目が覚めた。
覚めなくてもいいのに……。
ナースがやってきて、
「葉月さん、あのね、救急の研修医の人が“手が荒れてかわいそうだから”って、クリームを預かってきたのよ。今塗ってあげるわね。他のナースたちにも引き継ぎしてあるから、一日に何回か塗るからね」
そう言って、俺の点滴をしていない方の手を見た。
「あらまあ、本当に荒れてるわね。あなた大学生でしょう? 一体何をしてたの?」
そう聞かれた。
え……?
しばらく考えた。
__研修医?
「すみません、その研修医の人、名前は分かりますか? 後でお礼を言わないと」
「ああ~有名よ。超イケメンだもんね。おまけに優しいのよ。救急に運ばれた患者さんの手がかわいそうだって、自分で買ってきたらしいわよ。まだ研修医だと処方ができないからね。ナースステーションでもその話でもちきりだったわよ」
海斗か……。
俺、また見られてしまったのか。
奈落の底に落ちるような、絶望的な気持ちになった。
また迷惑をかけてしまった……。
クリームの容器を手に持たせてもらい、ぎゅっと握りしめた。
言葉にならない悲しさと悔しさ、切なさと――そして恥ずかしさでいっぱいになった。
なんで俺は、こんな無様なところを、
一番見せたくない人に見られてしまうんだろう。
そうだ、記憶のどこかに手の温かさを感じていた。
今思い出した。
あれはきっと海斗の手だったんだな。
情けない。
自分の身体が憎らしかった。
あとは布団をかぶって泣いた。
泣いても泣いても、涙が止まらなかった。
海斗……海斗……
何度も心の中で叫んだ。
ごめんね。
こんなことになってしまって。
恥ずかしくて、情けなくて、
こんな荒れた手を見せたくなかったのに、見せてしまった。
どれだけ心配をかけたのか……俺は分かった。
きっと今頃、海斗はすごくつらいと思う。
ああ……なんで階段から落ちたんだろう。
間抜けすぎる。
おばさんも、下で俺を抱くくらいなら、
なんで途中で止めてくれなかったんだよ。
逆恨みだって分かってるけど、
肝心な時に助けてくれなかったじゃん……。
そう思ったら、また泣けた。
ともだちにシェアしよう!

