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第53話 クリーム

  翌朝、また目が覚めた。 覚めなくてもいいのに……。 ナースがやってきて、 「葉月さん、あのね、救急の研修医の人が“手が荒れてかわいそうだから”って、クリームを預かってきたのよ。今塗ってあげるわね。他のナースたちにも引き継ぎしてあるから、一日に何回か塗るからね」 そう言って、俺の点滴をしていない方の手を見た。 「あらまあ、本当に荒れてるわね。あなた大学生でしょう? 一体何をしてたの?」 そう聞かれた。 え……? しばらく考えた。 __研修医? 「すみません、その研修医の人、名前は分かりますか? 後でお礼を言わないと」 「ああ~有名よ。超イケメンだもんね。おまけに優しいのよ。救急に運ばれた患者さんの手がかわいそうだって、自分で買ってきたらしいわよ。まだ研修医だと処方ができないからね。ナースステーションでもその話でもちきりだったわよ」 海斗か……。 俺、また見られてしまったのか。 奈落の底に落ちるような、絶望的な気持ちになった。 また迷惑をかけてしまった……。 クリームの容器を手に持たせてもらい、ぎゅっと握りしめた。 言葉にならない悲しさと悔しさ、切なさと――そして恥ずかしさでいっぱいになった。 なんで俺は、こんな無様なところを、 一番見せたくない人に見られてしまうんだろう。 そうだ、記憶のどこかに手の温かさを感じていた。 今思い出した。 あれはきっと海斗の手だったんだな。 情けない。 自分の身体が憎らしかった。 あとは布団をかぶって泣いた。 泣いても泣いても、涙が止まらなかった。 海斗……海斗…… 何度も心の中で叫んだ。 ごめんね。 こんなことになってしまって。 恥ずかしくて、情けなくて、 こんな荒れた手を見せたくなかったのに、見せてしまった。 どれだけ心配をかけたのか……俺は分かった。 きっと今頃、海斗はすごくつらいと思う。 ああ……なんで階段から落ちたんだろう。 間抜けすぎる。 おばさんも、下で俺を抱くくらいなら、 なんで途中で止めてくれなかったんだよ。 逆恨みだって分かってるけど、 肝心な時に助けてくれなかったじゃん……。 そう思ったら、また泣けた。

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