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第55話 退院

 入院してから一週間が経った。 首のコルセットは今日外してくれた。 正直、首がこりこりで、なんとかしたいけど、治るには時間がかかりそうだ。 それに身体のあちこちを打っているから痛い。 あざになっているのかな? 首もまだつらいから、自分の身体なのによく見られない。 今さら見てもしょうがないんだけどさ。 身体中がこわばっているから、動きがロボットみたいになる。 ただ、今は無性に寂しい……。 海斗がいてくれたら抱いてもらうところなんだけど、 ――抱き枕が欲しいよ。 今日が退院日。友子たちが来てくれた。 「ねえ、葉月君、まだ退院には早いんじゃないの?」 友子が心配していた。 「そうだよ、まだ辛そうじゃないかよ。無理だって。もっと居させてもらえないのか?」 樋口も心配してくれたが、俺は入院費が負担だったし、何より家で勉強したかった。 まだ卒論が全然進んでいなかったから、すごく焦っていた。 「葉月君、家に帰ってもご飯とかどうするの? 手伝いに行こうか? 私、食事の支度くらい出来るよ」 ふっ、友子は心配性だ。 「ありがとうね。でも俺は一人でも大丈夫だよ。買い物も行けるし、何ならネットでお弁当を注文するから大丈夫だよ」 そう言って、みんなには大丈夫だからと帰ってもらった。 正直、家まで来られるのが嫌だった。 面倒に感じた。 だから“弁当を注文する”なんてウソを言っちゃった。 そんな高いもの、俺が頼むわけない。 とりあえずご飯を炊けば、おにぎりだけでもいいんだ。 いっぱい作って冷凍しよう。 そしてナースから「会計ができました」と聞いて、1階へ支払いに行った。 とりあえずカード払いにしよう。 「すみません、葉月ですけど、お会計をお願いします」 「はい。あら、葉月さんはすでにお支払い済みになっていますよ」 「え? 俺はまだ払ってないんですけど」 「はい。でもすでに支払われています。こちらが領収書です」 金額は十五万ほどになっていた。 「すみません、誰が払ってくれたんでしょうか?」 「さあ、それは私には分かりませんけど……」 もしかして口止めでもされたのかと思った。 それなら海斗しかいない。 最初にいとこの万里生が五万払ってくれているから、 残りの十万を海斗が払ってくれたんだ。 ……どうにも言いようのない気持ちになった。 身体中が浮き上がるような――身の置き所がない感じ。 どうしよう……こんな大金をまた海斗に払わせてしまった。 うれしいけど……助かるけど……。 いつも負担をかけてばかりだ。 俺ってもう本当にイヤだ。 またメールしないといけない。 それがプレッシャーだった。 なんて言おうか? 病室に戻って少し考えた。 そしてメールした。 「海斗、また入院費を払ってくれてありがとう。 大金なのに本当にごめんね。 今日退院します。 だいぶ良くなりました。 入院費はいつかお返しします。 心配をかけて本当にごめんなさい。 ハンドクリームもありがとう。 どうぞお元気で」 これ以上は言えなかった。 これで分かってくれたかな。 とにかく、ゆっくりと荷物をまとめて駅に向かった。 荷物といっても病衣は借り物だし、いとこの万里生が売店で買ってくれたタオルや雑貨くらいしかない。 万里生にも借金ができてしまった。 これも返さないといけない。 どうしよう、俺には大金だ。 病院を出て、雑踏の中を歩くのが怖かった。 人とぶつかったら痛いし、今なら倒れてしまう。 人を避けながら、ゆっくりと歩いた。 電車は平日の日中だから、そんなに混んでいない。 良かった。

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