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第58話 友子のお誘い

 友子からメールが来た。 「みんなで卒論、返してもらいに行かない?」 うーん……どうしよう。 別に、あれは行かなくてもいい。 個人の自由なんだ。 要らないと言えば要らない。 でも、ここで断ったら、卒業式まで一度も会わないままになる。 入院した時も、みんなでお見舞金をくれたし……お礼くらいは言っておくべきか。 結局、大学の掲示板前で待ち合わせることになった。 みんな時間通りに来てくれた。 卒論を受け取り、指導教員に軽くお礼を言って、あっさり終了。 ――まあ、用事はそれだけなんだけど。 「どこかで喋ろうか?」と樋口。 学食が助かるんだけど、どうせ友子は違う場所を言うだろうな……と思っていたら、 「ねえねえ、スタバ行かない?」と案の定の友子。 やっぱりね。 今日は俺もそのつもりで来たから、素直に頷いた。 大学近くのスタバは、意外と空いていた。 「とおる、ずっと会わなかったけど、身体どうなんだ?」と吉田。 「そうだよ。冷たいよ、全くさ。音沙汰ないんだもん」と樋口も不満そう。 なんだかおかしくて、思わずニヤッとした。 「そうよねえ。葉月君は冷たいからさ。なしのつぶてだもんねえ~」 友子が拗ねた声を出す。 ふふっと笑ってしまった。 「で、とおる。就職どうしたんだよ?」 樋口、早速その話か……。 「うん、大丈夫だよ。先輩が紹介してくれるって」 「へえ~」と三人の声が揃う。 「先輩って誰だよ?」 「いとこの先輩だから、みんな知らないよ」 「へえ~そうなんだ。で、どういうとこ?」と吉田。 「病院の事務にしようと思ってるよ。病院なら結構あるでしょう?」 「まあ、そうだな。でも給料安くないか?」と樋口。 「俺はそれでもいいんだよ。特に望んでないからさ」 そこで友子が身を乗り出した。 「ねえ、葉月君。製薬会社ってイヤかな?そこなら確実に入れるんだけど、どうかな?」 「あ、友子、葉月を親父の会社に引っ張ろうとしてるだろ?」と樋口。 「へへ~ん、いいじゃん。ほっといて。 ねえ葉月君、どうかな?今からでも十分間に合うよ。 給料もね、すごくいいんだよ」 「おい友子、その話俺にくれよ」と吉田。 「あ、いいわよ。普通に面接受ければいいんだよ」 「違うよ、コネくれって言ってるんだよ」 吉田が粘る。 「ちょっと待って、その話は後回し! ねえ葉月君、どうかなあ?私の一生のお願いよ。そこに入ってくれないかなあ?」 “ 一生のお願い ”が出た瞬間、樋口も吉田も黙った。 かわいそうに。ちょっと笑える。 「友子、本当にありがとうね。でも、いとこに世話になってるからさ。変えるつもりはないんだよ」 「ええ?どうしてもだめなの?」 「うん、ごめんね。これが最終の返事ね」 友子は落胆して、唇を噛んだ。 「いいよなあ~、とおるはさあ。どこがいいのかねえ?」と吉田。 「ちょっと失礼でしょう?あんたには分からないわよ」と友子。 「へい」 また笑ってしまった。 怒る友子だけど……ふふ、この子は強いから大丈夫。 お見舞いのお礼に、ここは俺がご馳走した。

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