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第59話 引っ越し準備
友子たちと会った後も、生活はいつも通りだった。
午前は勉強、午後は四時間だけのバイト。
時間は少ないけれど、また手が荒れたら海斗が心配するし、身体に負担がないようにした。
家にいればお金もかからないし、それで十分だ。
夜は休憩か、また勉強。
先日、菅野さんがレクチャーしてくれた資料は、ほとんど頭に入れた。
きっと、これから大事になるんだろうな……そんな気がした。
いとこの万里生には、借りていたお金を六万円にして返した。
下着やタオル、いろいろ買ってくれて、急な入院に間に合わせてくれたから。
感謝とお礼だ。
東京で頼れるのは万里生だけ。
緊急連絡先になってくれたこと、本当に助かった。
そして――三月二十三日。
卒業式の日が静かにやって来た。
式典は別のキャンパスである。
着くと友子たちがいた。
みんなパリッとスーツを着ていて、なんだか大人っぽい。
俺も買ったばかりのスーツに袖を通した。
鏡を見て、思わずクスクス笑った。
“新卒の匂い”って、こういうことかな。
靴も新品。
歩くたびに、少しだけ背筋が伸びる。
卒業式が終わると、みんなと握手で別れた。
友子にぎゅっと手を握られたけど、俺も笑顔でぎゅっと握り返した。
笑顔で終わろう。
それが一番いい。
バイトは昨日のうちにお礼を伝えて辞めていた。
家に戻ると、海斗のお父さんからメールが来ていた。
「卒業おめでとう。寮の部屋番号だ。来れるならすぐおいで」
飛び上がるくらい嬉しかった。
急いで引っ越しのトラックを頼んだ。
そのことをお父さんにもメールすると、
「病院の採用者には全員、引っ越し代が出る。十万円だ」
と返ってきた。
え、十万円!?
すごい……!
慌ててスマホで通帳を確認すると、もう入金されていた。
本当に助かった。
不動産屋にも電話して、あさって引っ越すことを伝えた。
大急ぎで荷造り。
光熱関係の連絡も済ませる。
もうルンルンだ。
ほとんど片付けてあるから問題ない。
しいて言うなら、冷蔵庫の中身。
空っぽにしないといけない。
ああ……なんて楽しいんだろう。
幸せって、こういうことなんだな。
両親にも新しい住所をメールした。
「部屋の写真を送れ」って返ってきたけど、
はは、送ってやるさ。
病院の写真だって、撮りまくってやるよ。
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