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第72話 結婚の挨拶
今日は22日、日曜日。
海斗と車で実家に帰る日だ。
お土産は海斗がいっぱい買ってくれた。
それと、俺が買った下着も車に乗せた。
向こうに着くのは12時の予定。
多分ご飯を用意してくれてると思う。
俺の父は農協で働いている。
母は、そのそばの直売所でパートをしている。
二人ともそんなに収入がないのに、俺を東京の私立大学に行かせてくれた。
それに東京での生活費として毎月8万を送ってくれたんだ。
俺はこの8万と弁当屋さんのバイトで凌いだ。
両親にとってこれがどれほど負担だったか、俺は知っている。
母のパート代がそっくり無くなり、父のボーナスだけでは足りず、
貯金を崩しながら、なんとか4年間支えてくれた。
俺はこの1000万近いお金を、絶対に全額返すつもりでいる。
だから全く遊んでいない。
でも遊びたいと思ったことがないから、ちょうど良かったよ。
田舎の実家までは車で3時間半くらい。
そして実家に着いた。
うちは普通の家だ。
田舎の家だから庭だけは広い。
車が5台くらい置ける。
今は父母の車と軽トラで3台。
そこへ海斗の車が入っても余裕だ。
家に着くと、二人が玄関に出てきてくれた。
ふ、二人ともあんぐりしたまま、ぽーっと海斗に見惚れていた。
面白い。ふふっと笑った。
「ただいま。お母さん、お父さん、ご無沙汰しちゃってごめんね」
海斗が恐縮していた。
しかも両手に山のような荷物。
「さあさ、狭い所ですが、どうぞどうぞ、おあがりください」
やっと母の声が出たみたい。
「海斗、上がって」
荷物を受け取り、スリッパを差し出した。
「香菜はどうしたの?」
「今二階にいるけど、すぐ来るよ」
そこへ、だだだっと音を立てて香菜が降りて来た。
やっぱり、ぽーっと海斗に見惚れていた。
挨拶なし。忘れてるみたい。
取りあえず居間のソファに座ってもらった。
そこでみんなに紹介した。
「こちらは一条海斗さん。俺の1年先輩でお医者さん。
今お世話になっている一条総合病院の院長先生の息子さんだよ」
まだ、みんなポーっとしていた。
「初めまして、一条海斗と申します。
いつもとおるさんには大変お世話になっています」
まだ駄目。見惚れてる。(笑)
「ねえ、みんな座ってよ」
それでようやく座ってくれた。
父と母が交互に俺と海斗を眺めていた。
右、左、右、左。
香菜も同じだ。
「海斗、こっちは妹の香菜だよ。高校3年なんだ」
ぺこっと頭を下げた。
どうも照れてるみたいだな。
「香菜、なんとか挨拶したら?」
俺が促すと、
「どうも……」だって。
「あのね、俺、この海斗さんと結婚したいと思ってるの。それで紹介しに来た」
突然、海斗が立ち上がった。
「あの、とおるさんを私にいただけないでしょうか。
大切にしますので、どうぞお願いします」
深くお辞儀をしてくれた。
「あ、あ、そうね。良いわよね? お父さん」
「あ、うん、うん、いいさ。とおるが良いなら言うことないよ」
笑った。ようやく戻ったみたい。
「お兄ちゃん、どこで見つけて来たの? イケメン過ぎるよ」
香菜が言うから、みんなで笑った。
「良いだろう?」と言ってやった。
「お兄ちゃん、ずるいよ」だって。
また笑ってしまった。
それからお土産を渡して喜んでもらった。
「お父さん、お母さん。4年間、本当に無理をさせてごめんね。
ありがとうね。これから働いたら、どんどん返すつもりだから。安心してね」
「え? そんな気を使わなくてもいいんだよ」
父がやさしいことを言ってくれた。
そこで、海斗がフォロー。
「いえ、お父さん、お母さん、とおるの気が済むようにしてやってください。
こんなに努力する人は滅多にいません。
大学にいる間に、自分の力で運転免許や簿記3級・2級、
それから難しい医療事務のレセプトの資格も取りました。
父もたいそう感心してかわいがっています。
どうかご安心ください。
皆さんもぜひ新居に遊びにいらしてください」
「はい。行きます」
香菜が答えるから、また皆で笑った。
もう~笑っちゃう。
「ねえ、ちょっとみんなで記念に写真を撮ろうか?」
俺が言い出した。
だってみんな海斗にぽーっとしてるんだもん。
証拠写真が欲しいだろうなあと思ってさ。(笑)
写真を撮った後は、みんなで食事をした。
そしていろいろ話してお茶したら、
今日は日帰りの予定だから実家を後にした。
無事、家族に挨拶を済ませることができた。
入籍だけ先にして、結婚式は5月の連休に身内だけで小さくやるつもりだと話しておいた。
その時は来てねと伝えておいた。
小さくやるのは海斗のお父さんの思いやりだ。
気を使ってくれたんだよね。
ありがたいねえ。
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