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第75話 沖縄に新婚旅行

座席に座ると、海斗はブランケットをお願いしていた。 俺のためなんだって。うれしい。 こういう時に花嫁さんになった気がする。 離陸する時が恐ろしく怖かった。 オレ……多分震えてた。 「降ろしてー!」と叫びたくて――固まっていた。 それなのに、海斗はわざと耳元で 「ほら、浮くぞ~」 なんて囁いてきた。 くそー、この悪魔め。 そしたら海斗がにやりとして、俺の手をぎゅーっと握った。 でも意外と、ふわっと離陸した。 あっという間に遠ざかる空港。 なんだよ。大したことないじゃん。 そう思って海斗を見たら、 唇をちょっとすぼめてキスを飛ばしてきた! な、なにをするー。 目が丸くなった。 この閉鎖的な空間で、俺をどうしようというんだ。 これが家だったら ⇒ 抱っこされて ⇒ ベッド なんだけどさ。 今はシートベルトで固定されてるんだぜ。 み、見なかったことにした。 はあ……もう息苦しい。 そして乗ってる間に、ブランケットの下に手をそろそろと入れて、 何回も不埒な真似をしようとしてきた。 その手は悪さをしないように握り締めた。 なんだよ、 そのためにブランケット頼んだの? まったく……油断も隙もない。 そしてドキドキの空の旅は、3時間ほどで到着した。 ガガガーという急ブレーキもどきも、もう怖くなかった。 「早くやっちゃってー」という余裕まで生まれていた。 海斗を見ると、またニターっと笑っていた。 「どう? 平気だったでしょう?」 ふん、「浮くぞー」って言ったことは忘れないからな。 飛行機から降りてブリッジを渡り、外に出た。 「え、なにこれ?」 日差しがかんかん照りで、 もわっとした空気……。 湿気が肌にぴたーっとまとわりつく。 「海斗、なんかお風呂にいるみたい」 「ふふ、これが南国の空気さ。ほら行くぞ」 海斗は、予約してくれていたレンタカーにさっさと乗せてくれた。 エアコンは最高だ。 そうだ、車の窓から見る景色がいいんだな。 「どこに行くの?」 俺は予定は一切聞いていない。 だって聞いても分からないもん。 「ミステリーツアーだよ」 と海斗が気取っていた。 ふ~ん。 そして走ること約1時間。 そこは恩納村だった。 だって地名の看板が出てる。 そして大きなホテルに到着した。 「ハ、ハ……」 名前を読もうとしたら、 「いいから忘れろ」 と言われ、あっという間に車から降ろされた。 ホテルの中に入ると、あまりの豪華さに目がくぎ付けになった。 こんなところに来るのは生まれて初めてなんだもん。 俺は素晴らしすぎるロビーで待っていた。 「あのさ、まだ早いから荷物は預けた。 あとで部屋に運んでおいてくれるから、昼食はここで食べようぜ」 「はい」 ふふふ、成り行き任せっていいねえ~。 お金の心配をしないのが最高だよ。 俺、人生で今が一番幸せ。 このホテル、他はどうなってるんだろう。 大きな窓から青い海が見えている。 わー、凄すぎて飽きない。 いくらきょろきょろしても見足りないよ~。 そしてレストランに行った。 うわっ、びしっとしたサービススタッフがいっぱいいて、 微笑んで俺たちを見ていた。 そんな世界は知らない。 大きな窓からは青い海と、左手にプールや白いパラソルも見える。 なんて豪華なんだ。 レストランに入ると、え? あれはビュッフェだって。 色とりどりに美しい料理の数々。 置いてあるだけ~? 「海斗、俺何を食べればいいの?」 「好きなものを取って食べていいんだよ」 ……う~んと、よく分からない。 「え? あれもこれもいっぱい食べていいの?」 小さな声でそっと聞いた。 「うん、そうだよ。取ってあげようか?」 「はい、取ってください、旦那様」 いきなり海斗がアハハハと笑った。 もうやめてよ。笑い過ぎだよ。 スタッフの人の注目を浴びてるよ。 「とおる、面白すぎ!」 そして、いろんなものを少しずつ取ってくれた。 「どう? これで満足か?」 「うん、満足じゃ」 そこへスタッフが来た。 「お飲み物はいかがなさいますか?」 「とおる、何飲む?」 「う~ん、分かんないからお任せ」 「シャンパンを2つお願いします」 え……なんか言った?……。 空耳か。 昼間っからシャンパンなんてねえ~。 とにかく食べることに集中だ。 どれから食べていいか分からない。 これ、一つ一つに手間がかかってるのは分かる。 うちに出張してほしい。 そしてドリンクが運ばれてきた。 縦長のグラスに泡がシュワシュワしていた。 やっぱり……。 「とおる。乾杯しようよ」 「うん」 「じゃあ、俺たちの新婚旅行に乾杯!」 「かんぱーい!」 ふふふ、こういう時って笑いしか出ないものなんだな。 シャンパンはめちゃめちゃうまかった。 「これ癖になるよ~」 「いくらでも飲んでいいぞ……って言いたいけどさ、ダーメ。 まだ行くところがあるからさ。グラスの半分だけにしてくれない?」 「はーい」 ああ~おいしかったのに残念。 でも、その後はこれまた魅力的な赤いソフトドリンクを頼んでくれた。 これは酔わないんだって。 これも甘いのに爽やかで美味しかった。 いえ~い! それにしても海斗はゆったりと食べていた。 なんか違いを感じる。 俺もゆったりと食べなくちゃ~。

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