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番外編1・プリン
「腹が減ったよ~、なんか頂戴」
海斗が俺の事務所に入ってきた。
「まだ食べてなかったの? もう3時過ぎだよ」
「だって忙しくてさあ、食堂の定食がもうなかったんだよ。
まあどうせ、とおるのご飯の方が美味しいんだけどさ」
そう言いながらも、机に向かっている俺の後ろから、
手を回して抱きついてきた。
首元に唇を這わせて、流れるようとキスをしてくる。
「もうダメだよ~、あとがついちゃうもん。それに仕事中だよ」
無理やり海斗を剥がした。
「早く座ってて。今用意するから」
「へ~い」
俺は直前まで、大量のレセプトをチェックしていた。
でも海斗の妻なんだから、切り替えなくちゃね。
「今なんか美味しいものを出すね」
机の横に置いてある、なぜか不釣り合いな台所用品。
前のアパートで使っていた物。
この部屋に流し台もないのに、捨てるのが勿体なかった。
でも今日も海斗のために、
この部屋でご飯を炊いておにぎりを作っていた。
だっていつお腹を空かせて来るのか、分かんないんだもん。
水仕事は廊下の奥の湯沸かし場を使っている。
味噌汁は家から持って来ているから、これも電子レンジで温めた。
おかずも冷蔵庫から出した。
ほうれん草の和え物と卵焼き。
牛肉のそぼろもあるし、
あとはキャベツときゅうりの即席漬け。
家から持って来た。
トレーに温めたものを並べる。
「はい、出来ましたー! 召し上がれ」
「ん、ありがとうね」
そして美味しそうに食べている。
そこへノックがした。
「はい、どうぞ」
隣の部屋の院長が入ってきた。
「あれ? 海斗が来てるの?」とお義父さん。
ちらっとお義父さんを見つつも、
食べるのを止めない海斗。
「お義父さん、何か御用だったんですか?」
「なんかおやつを貰おうと思ってさ」
ふふふ、もう~。親子してこれだもん。
「はい。すぐご用意しますよ」
ちゃんと用意してある。
手作りプリンにバナナとアイスクリームを添えた。
「お義父さん、どうぞ」
「うん、ありがとうね。うまそうだ」
「とおる、俺にもある?」と海斗。
「うん、あるからゆっくり食べてよ」
「ふっ、全く……海斗はここを自分ちのダイニングだと思ってるな」とお義父さん。
「父さん、とおるがせっかく作ってくれるのに勿体ないじゃん」と海斗。
「そうだな。それにしてもここは流し台がいるよなあ。
工事屋さんに頼んでみようか?」
「そうだよ。俺が帰ってきてもうすぐ2年なんだよ。
研修医が終わっちゃうよ。早く台所を作ってくれないと、
専攻医になったらあまり家に帰れないんだよ」
ちょっと不満を言う海斗。
「ああ、よしよし、分かったよ。後で電話しておくよ」とお義父さん。
「海斗、あまりお義父さんに無理言わないで」
たまりかねて海斗に注意した。もう~。
そこへひょっこり、海斗の妹の友梨奈ちゃんがやってきた。
「あっ、いいなあ~プリン食べちゃって......」と友梨奈ちゃん。
ふふふ、友梨奈ちゃんはプリンが大好物。
「友梨奈ちゃんの分もあるよ、食べる?」
「うん、食べる」
おやつを食べたくて大学の帰りに来たんだ。かわいい。
友梨奈ちゃんは第一志望の医学部に合格した。
偉いねえ。やっぱり親の頭が良いと子供もいいんだねえ。
友梨奈ちゃんもアルファなんだって。
結局オメガは俺だけだな。
もうすぐ海斗は研修医が終わる。
そしたらここで専攻医を続けて、
消化器内科の専門医になるんだって。
海斗は頭がいいから絶対なれるよね。
俺はずっとここでレセプトのチェックの仕事を続けている。
海斗がすべての生活費を払ってくれてるから、
俺の給料はほとんど実家に送金している。
おかげでこの二年間で、もう600万くらいは返せた。
本当にありがたい。
両親からも妹の香菜の大学の費用に、使わせてもらったって言ってくれた。
うれしかった。少しは恩返しが出来たもんね。
困ることと言ったら、
海斗が子供を作りたいと、ヒートでもないのに頑張ろうとすることかな?
だって子供ができたら、お金を返せなくなるんだもん。
だからどんどん逃げてる。
でもさっき、首元にキスをいっぱいされた時、
「今夜も頑張るからね」と言っていた。
もう~頑張らないでほしい。
今夜はゆっくり寝かせてほしいんだもん。
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