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番外編5・悲しみを溶かすスイートポテト
あれから2か月ほど経った。
海斗は専攻医となって、
予告通り本当に家に帰れなくなった。
やはり、院長の息子というのがあるのか?
他の人の宿直も頼まれると代ってあげたりしているらしい。
まあ正直それはやめて欲しいんだけど、しょうがないか。
院内の人間関係もあるしね。
お義父さんが俺の事務室に台所を作ってくれた。
うれしいんだけどさ、
病院の中ではなんて言われてるんだろう?
病院の私物化__って言われてないかな?
確かにその通りなんだな。
これで台所が俺の第二の仕事になったってことだよね。
昼食やおやつの時間には、お義父さんも来るし、
海斗はとんでもない時間にご飯を食べに来ちゃうし‥‥‥。
友梨奈ちゃんも大学が終わったら真っ先に来てくれる。
これは憩いの場になっているってことなのかな?
これはうれしいことだよね。
俺もレセプトのチェックをしながらだから、
それほど大したものは作れない。
でも絶えず買い物をしておかないといけなくなった。
段々台所の回りの物が増えて、
食器棚が必要になって置くことになった。
海斗が見かねて注文しちゃったんだけどね。
だって食品や乾物、調味料を入れる場所がなかったんだもん。
段々段ボール箱の床置きが増えちゃってさ。
見苦しくなっちゃった。
だからこの部屋はもう事務室じゃない。
ただのキッチンとダイニングルーム。
その片隅で仕事をする俺。
今日の昼ごはんは豚肉と野菜の五目ビーフン。
デザートはコーヒーにオレンジと焼き菓子。
お義父さん曰く、隣の院長室にいい匂いが漂って来るらしい。
換気扇が窓の横に取り付けてあるから、
匂いが流れちゃうんだね。
午後のおやつは16時頃。
もう用意してあって、スイートポテト。
これはバターやミルクをたっぷり入れて、ここで作った。
これに缶詰のパイナップルを添える。
さあ、レセプトの仕事をしなくっちゃ......。
最近は慣れてきて。ミスのパターンが分かってきた。
だから前よりも仕事が早く進むようになっている。
それにしても海斗がまだご飯に来ていない。
どうしたのかなあ?
そのうちに、そっとドアが開いて入って来たと思ったら、
ソファにどさっと横になって、腕で目を覆った。
そばに行って声をかけた。
「海斗どうしたの?」
「救急患者が来て吐血しているから、
管を通して内視鏡をしようとしたけど、間に合わなかった......」
「そうか......大変だったね。なんか飲む?食べる?」
髪を何回か撫でた。
「取りあえず食べた方が良いのかな?」と海斗。
「そうだよ。食べないと元気が出ないよ。じゃあ作るね」
俺は五目ビーフンを作った。
しかし、悲しみに暮れている海斗のそばで、
こんなにジャージャーと炒める音ってどうなんだろう?
そう思いながらも、しっかりお肉も入れて作った。
元気を出さないとね。
そして出来上がって、ダイニングテーブルに用意した。
「海斗、出来たよ。食べてね」
その声に促されるように、のそっとテーブルに着いた。
お水も出さないと駄目だな。
「なんだか旨そうだね」
「うん、そうかな?食べてみて。力がでるよ」
そして食べ始めた。
「やっぱりうまいわ」
無心に食べていた。
だって私達、生きてるんだもんね。
美味しく食べるって、きっとそういう事だと思う。
そこへお義父さん登場。
「今頃昼飯か?お疲れ様。ダメだったんだってなあ......」
「うん。がっかりだよね」と海斗。
「まあ、寿命だからしょうがないよ」とお義父さん。
「お義父さん、おやつにしますか?」
「うん、貰おうか」
スイートポテトとパイナップルを添えて、コーヒーを用意した。
「ほう、スイートポテトか、作ったのか?」
「はい。作りました」
「そんなに手間をかけなくていいよ」とお義父さん。
「とおる。俺もそれ食べる」
ふ、海斗が少しは元気が出たみたい。
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