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第5話 心地良さと違和感

 店に入り祥吾が名乗ると個室に案内された。  レストランの個室、どこがカジュアルなんだと結人は思う。車も高級車だったけど、この店も高級そうだ。  結人はドキドキしているのに、祥吾は慣れた様子だ。きっとこんな高級店も日常なんだろう、そう思うのに十分所作がスマートだ。 「うん、どうかしたか?」 「ああ、いえ……祥吾さん慣れているんですね」 「そうか? あんまりこういう店には来ないがな」 「そうなんですか? 堂々としているから、慣れているなと」 「そうか、先ずは乾杯しよう。バイトお疲れさんだったな」  シャンパンで乾杯する。結人は、酒は飲みなれていないので固辞したが、乾杯だけでもと言われたのだ。酔うのは怖いので一杯だけにするつもりだ。 「カフェで勉強に本腰って言ってたけど司法試験?」 「はい、在学中の合格を目指しているので、今年の予備に合格しないと」 「予備?」 「予備試験に合格すると司法試験を受けられるんです。だから今年予備に合格しないと在学中の合格が不可能になるんです」 「なるほど、在学中の合格なんて、結人は優秀なんだな」 「僕は普通ですよ」 「東大生の普通だろ。俺の行った大学とは比べ物にはならん」  と言って祥吾も名の通った私大を卒業している。決して恥ずかしくない学歴だ。どころか極道の世界ではかなりのインテリ扱いだ。 「祥吾さんこそ優秀って言うか、若いのに社長って凄いですよ」 「俺は親の事業の枝みたいなもんだからな」 「でもトップは苦労もあるんじゃないですか?」 「まあ、それはそれなりにな」  祥吾は場の持たせ方が上手い。結人が気分よく過ごせるようにと、心を配ったせいでもあるのだが。  最初は緊張気味な結人だったが、徐々にリラックスしてくる。料理も美味く遠慮なく食べ進める。  いつの間にか心地良さまで感じるのだった。 「後はデザートになるが、足りるか? アラカルトで追加するか?」 「もうお腹一杯。デザート食べたら限界です」 「そうか、だったら良かった。そうだ、肝心なことがまだだったな。連絡先を交換しよう」 「あっ、はい」 「これで安心だ。また誘うよ。今度はどんな店がいいか?」  結人は少しきょとんとする。ご馳走してくれるの今日だけじゃないの? 「うん? どうしたんだ?」 「今日はバイト終了のお疲れさんでご馳走されたと思ったので」 「まあそうだが、これをきっかけにこれからも結人と付き合いたい」  付き合いたい!? いまそう言ったか! どいうことだ! 「えっと、付き合いたいって……僕、男ですよ」 「ああ、勿論だ。今時男同士で付き合うのに何の問題もないだろ」  それはそうだけど、なんで僕? 祥吾って絶対女にもてるだろう。この外見で社長だよ。 「だけど、彼女いないの?」 「ああいない。勿論彼氏もいない。だから結人を誘っている。俺は不実な男とは違う」  きっぱりと言い切る祥吾。その眼差しは真剣だ。 「今言っておくが、あの店で初めてお前に会った時俺は惚れた。一目惚れだ。だから毎日通った。俺と付き合ってくれ」  結人は沢村の言葉を思い出す。彼の見立ては正解だった。しかし、それでも半信半疑。なんでこのイケメンハイスペックが自分に惚れる? それが理解できない。それを正直に祥吾に話す。 「今は理解しなくてもいい。付き合っていくうちに段々と理解できるようにしていく」  それが締めの言葉になった。つまり。榊結人は鬼神祥吾と交際することに決まったのだ。 「次会えるのは来週の土曜日か、一週間もあるな」  次回の約束も結人がぼーっとしている間に決まった。全てが祥吾のペースだ。  結人は未だに何か信じられない気分でいる。ほんとにこの人と付き合うの?  そもそも祥吾のことを何も知らない。社長ってことだけど、運転手とドアマン付きの高級車って、理解を超えている。  だけどなんかよく分からない。軽い酔いもあり少しぼーっとする。  ――っ!  祥吾が結人の手を握る。びっくと反応した結人は咄嗟に手を離そうとする。しかし、祥吾はそれを許さない。結人は直ぐに抵抗を辞める。  祥吾は指の腹で、結人の手を愛撫していく。ゆっくりと丁寧に……。  だめっ……そんな、感じる。結人は逃れようとするが、勿論祥吾は許さない。  優しく、しかし執拗に結人の手を愛撫していく。  まるで口付けで口腔内を舌で愛撫するように……。甘い陶酔が結人を襲う。全身を侵食するように。 「あっ」  感じる結人が思わず声を漏らす。自分の声に反応した結人は祥吾を睨む。涙目で……。  そんな目で睨んで誘っているのか……。さすがにそれはないか。  結人が感じやすい体なのは確か。このまま抱きたい。全身をくまなく愛撫して、蕩けさせてやりたい。  祥吾は体の中心に熱が集まるのを感じる。だが、ここまでだと己の理性を総動員させる。 「結人、好きだ。俺は本気だ」  結人の耳元で低く囁く。  結人は縋り付くように祥吾の手を握り、そして頷いた。

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