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第8話 その肌の温もり

 電話で話すことはたわいない話題ばかりだ。  かといって、会って話すこともそうたいして変わるわけじゃない。しかし、祥吾と話すことは楽しいと結人は感じている。  頻繁に会うわけじゃないが、祥吾と会い一緒に食事するのは楽しいと思うようになっている。  昼は学食で学友たちと一緒に食べることも多いが、夕食はたいてい一人の結人には、祥吾との会話しながらの食事は楽しいし、美味しい。  最初は戸惑いながら応じていたその誘いに、今ではすんなりと応じている。  そんなある日のこと、今日もいつもの食事と結人は思っていた。  しかし、車が止まったのはラグジュアリーホテル。結人は戸惑いの眼差しを祥吾へと向ける。 「今日はここで食事しよう。たまには目先が変わっていいだろう」 「うん……でも僕こんなラフな格好だよ」  こんな高級ホテルには来たことないが、こういった場所にはドレスコードがあることくらいは知っている。 「大丈夫だ、心配いらない」  そう言って、祥吾はいつものように先に降り、結人にも降りるように促す。  結人が車を降りると、いつものドアマン広沢の他に五人の黒服の男たちに囲まれるようにホテルへと入っていく。  何?! この人たち? 結人にはさっぱり訳が分からない。    結人は未だに知らないが、祥吾は鬼神一家の大切な跡目。常にその行動には護衛が付く。  ただ今までの結人との食事の店は、車を降りたらすぐに店の入り口だったので、広沢一人で事足りていたのだ。  しかしホテルの場合、車を降りてからが長い。というわけで広沢に加えて五人の護衛なのだ。  エレベーターにも当然のように護衛たちは一緒だ。祥吾もだが、皆大柄な男だ。  百七十三センチの結人よりも、十センチ以上どころか、二十センチ近く大きい感じだ。  結人は、なんとなく息が詰まりそうな感じを持つ。  そして、そもそも男たちの正体は? その疑問は全く解消していない。  エレベーターを降り少し歩くと、部屋の前で立ち止まり広沢がドアを開ける。やっぱりこの人はドアマンだなと結人は思う。  祥吾が結人の背に手を当てて、入るように促す。  部屋の豪華さに結人は圧倒される。 「凄い!」 「スイートだからな」  眼を丸くして言う結人に、祥吾は満足げに応える。  先程のまでの疑問はすっかり忘れて、結人は好奇心満々で部屋を見て回る。こんな高級ホテル、一般の部屋でも縁が無かったのに、更にスイートなんてもっとだ。  子供が探検するかのような結人の様子に、日頃の真面目な東大生の意外な一面を見たようで、祥吾も嬉しい思いになる。  意外と結人は子供っぽいところがあるのかもしれない。八歳の年の差があるのだから、それでいい。いや、その方がより可愛いと思う。  今晩の思惑のためにこの部屋を抑えたのは正解だった。  ひとしきり探検し終わった結人が窓辺に立つ。祥吾も近づきその薄い肩を抱く。 「眺めも凄くいいね」 「ああ、夜になると夜景はもっといいぞ」 「うん、……でもどうして今日はここに?」  当初の興奮が収まると、ここはホテルで、ホテルは宿泊施設と思い至る。 「たまにはこんな所でゆっくりと過ごすのもいいだろうと思ってな。ほんとはクリスマスにと思ったんだが、年末年始は忙しかったからな」 「でも、こんなホテル凄く高いでしょ。しかもスイートなんて」  まあ、結構な値段なのは確かだが、結人との思い出の夜に高過ぎるなどない。 「大丈夫だ、心配いらない」 「あっ、今日ここに泊まるの?」  突然びっくりしたかのような結人の問いに、当たり前だろ、ここはホテルだと思いながら、祥吾は頷く。 「でも、僕何の準備もしてないよ」 「大丈夫だ、あした朝飯食ったら帰るからな」  いや、でも泊まるって……結人の頭に不安と疑問が、頭をもたげる。  それを察した祥吾は話題を変える。 「結人、夕飯は何がいいか?」  ルームサービスのメニュー表を見せる。 「ルームサービス?」 「ああ、夜景を見ながら気楽に食べるのがいいだろう。ドレスコードも関係ない」  まだ若干疑問は残るが、祥吾がメニュー表を見ながらあれこれと問い掛けるので、それに応えていく。 「よしっ、決まったな。注文するから待ってろ」  メニューは和洋中と揃っているが、部屋の雰囲気に合わせて洋食を選ぶ。最近は『中野』でおばんざい風の和食を食べることが多いので、たまには洋食もいいなとも思ったのだった。 「うわーっ凄いな!」  料理が届きテーブルに並べられると、結人は感嘆の声を上げる。こんな時の結人は、やっぱりちょっと子供っぽく可愛い。 「美味そうだな、さあ、食うぞ」 「なんか、凄く雰囲気あるって言うかロマンティックだね」 「そうだな」 「祥吾さんも変わってるよな。こんなところ、僕なんかよりきれいな女の人とのほうがいいだろうに」 「お前はまだそんなことを言うのか。俺が惚れているのはお前で、だからお前を連れて来たんだろうが」  少し腹立たしい気分になるが、まあいい、今夜はそれを十分に分かられせてやる。

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