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第11話 鬼神一家の本宅へ
「会長、若と榊結人さんの交際は順調のようです」
「あの例の東大生か」
「はい」
「そうか、つまり祥吾だけでなく相手も本気ということか」
「広沢の報告によれば、体の関係もあるとのことですから、そうかと思われます」
祥吾が本気と言えど、水と油のような属性でどうなる事かと思ったが、中々やるじゃないかと我が息子に感心する思いを東吾は持つ。
同時に祥吾を本気にさせている榊結人がどんな男か気になる。報告書ではなく直に会い、己の目で見極めたい。
もし、二人が本気で将来を共にと思っているのなら、祥吾の次の跡目のことも考えねばならん。当然だが男同士では子は出来ない。
東吾の頭の中には、鬼神一家を繁栄させそれを持続させること、それが常にある。否、それだけかもしれない。
鬼神一家のためなら、鬼にもなる、それが鬼神東吾なのだ。
「一度会いたいな」
「榊さんにですか?」
「勿論だ。遊びなら勝手にさせておけばいいが、祥吾が本気で付き合っているのなら一家にも関わり合いがある。わしも会わねばな」
会長の意向は、即座に広沢を通じて祥吾に伝わる。
「親父がか……」
祥吾もいずれは紹介せねばと考えていた。
天涯孤独の身の結人に、家族を与えてやりたい。一家のこれだけの人間がお前の家族になる。お前を喜んで受け入れると教えてやりたいと思っている。
ただ懸念は、当然本宅に連れて来れば、己の生業が極道と分かる。誓って法に触れることはしていない、けれど極道は極道。法律家を目指す結人が、それをどうみなすのか……。
既に体を重ねた。身も、心も委ねてくれていると感じる。まだぎこちなさは感じるが、大分馴染んでくれているとも感じる。
すんなりと受け入れることはないかもしれない。結人もある程度の衝撃を受けるだろうとは思う。
しかし、自分が支え、そして受け入れさせればいいのだ。
大丈夫だ――祥吾は決断した。
祥吾の意向は即座に広沢から三角を通じて会長に伝わる。
「そうか、連れて来るか。やはり本気と見えるな。ならば相応の歓迎をせねばならんな。久城が来たら顔を出させろ」
「かしこまりました」
久城とは、鬼神一家の若頭。つまり鬼神一家のナンバーツーだ。久城に話を通すということは、一家で結人を歓迎するということ。
いわば鬼神の私的な客ではなく、公的な客とみなすことになるわけだ。
「会長、頭がおいでになりました」
若頭の久城が部屋へ入って来る。
「久城、まあ座れ。お前さんに話がある。祥吾のことだ」
「若がどうかされましたか」
東吾はにやりと笑い、小指を立てる。
「ほーっ、若もとうとう」
祥吾が何人もの女と付き合うが続かないことは、久城も当然知っている。一家の将来を考えればそろそろ誰かと落ち着いて欲しい。一家には『姐』が必要なのだ。
「まあ、これを見てみい」
東吾は結人の調査報告書を久城に渡す。
手に取った久城は、榊結人の名にうん? と思ったが直ぐに合点したかのように頷く。
「この男が邪魔もんですか?」
つまり、祥吾の相手の女の男。この男がいると祥吾には邪魔になる。さすがに素人を消すことはないが、脅して別れさせろ、そう解釈したのだ。
「違うぞ、その男が祥吾のこれだ」
再び東吾が小指を立てる。
「えっ! えーっ」
久城が目を丸くして驚く。その様子に東吾は不敵に笑う。
「驚いたか?」
「いや、驚くって……つまり若の相手がこの男と」
「そうだ、まあ読んでみい、更に驚くぞ」
久城は真剣な表情で読み進める。読み終えると顔を上げる。二重に驚いた顔だ。
「東大生って、そんな秀才とどこで知り合ったんですか?」
「今は辞めたけどな、そのバイト先のカフェへ祥吾が客で行ったらしい」
「はあーっ、で、若は本気なんですか?」
「本気だ。既に体の関係がある。相手も本気なんだろうな」
成程、だから女と続かんかったのか、久城は祥吾を男色と理解する。個人の嗜好はそれでいいが、祥吾の場合一家の将来に関わる。
「会長、お許しになるんですか?」
久城にとって、そこが一番重要なことだ。男が相手なら当然子は出来ない。祥吾の次の五代目の問題がある。
「祥吾が本気なら許すしかないだろう。それにわしはな、その榊結人という男、並みの男じゃないところが面白いと思っている。将来は弁護士だ。そろそろ鬼神にも顧問弁護士がいるだろう。うってつけと思わんか」
東吾の言葉を久城は瞬時に理解する。だてに鬼神の若頭を張ってはいない。頭の切れる男だ。
「確かに、おっしゃる通りです。で、私は」
「ここへ連れて来させようと思っている。わしも直に会いたいからな。一家で歓迎する」
「かしこまりました」
久城は退出する。会長の命令は応じるのみで、疑問は問えない。細かいことは三角と広沢へと質すことになるのだ。
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