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第12話 鬼神一家の本宅へ

「頭、親っさんはなんと?」  会長のもとから戻った久城へ、若頭補佐の渋谷が尋ねる。 「若のこれの件だ」  そう言って小指を立てる。 「ほーっ若もとうとう」 「驚くなよ、相手は男だ」 「えっ! えーっ!」 「だから驚くなと言っただろう! 馬鹿もんが!」 「いや、男って、そりゃ驚くでしょ」 「まだ驚くぞ」  久城が不敵に笑う。  渋谷はその表情に息を飲む。もったいぶらずに早く言えと思うが、若頭にそんなことは言えない。 「その男東大生だ。将来は弁護士だ」 「えっ、とっ、東大生って……どっ、どこで知り合ったんですか?」 「なんでもバイト先のカフェに若が客で行ったらしい」 「って言うか、親っさんお許しになるんですか?」  誰しもが思う疑問を渋谷も発する。つまり、四代目の相手が男でいいのか。 「うちもそろそろ顧問弁護士がいるからな。歓迎すると言われた」  成程そう言う事か。まあ、子供は外でも作れるからなと理解する。 「お前と保住で取り仕切ってくれ。疑問は三角と広沢に質せ」 「かしこまりました」  渋谷は頭を下げて命令を受ける。同じ補佐の保住にも直ちに伝えて迅速に動く事となる。 「若、結人さんの本宅への招待は、次の日曜でよろしいですね」 「ああ、大丈夫だ。それでだな、いかつい野郎がゴロゴロいると、あいつ怯えるんじゃないかと思ってな」  確かにそれはあるなと広沢も思う。結人は堅気も堅気、真面目な東大生なのだ。広沢自身よくここまでことが進んでいるとも思うが、それは結人がこちらの生業を知らないからでもある。 「そうですね、そこは渋谷さんたちに伝えておきます。なるべく優しくお迎えするようにと」 「ああ、優しく笑顔でな」  極道が優しくはともかく、笑顔はかえって不気味だろうと広沢は思うが口には出さない。  なんとなくだが、大丈夫だろうかと、広沢の懸念は消えないのだった。  広沢は、若頭補佐の渋谷と保住に祥吾の意向を伝える。 「そうか、確かにな。堅気の真っ当な学生さんだからな。俺らが並んでるだけで威圧感半端ないよな」 「お前ちょっとためしに笑ってみろ。優しい笑顔だ」  はあーっと広沢は思うが、この世界理不尽なことでも上の命令は絶対。言うまでもなく若頭補佐の二人は広沢より立場が上だ。  広沢は半ば引きつりながらもとびきりの笑顔を見せる。 「だめだろっ! かえって不気味だろうがーっ」  それは理不尽だろ! 自慢じゃないが広沢はけっこう女にもてる。それも年上のママや大ママたちに可愛いと人気があるのだ。その俺の笑顔が不気味なら、他の奴らはもっとだろ。  広沢の懸念は増すばかり。頼むから怯えないで欲しいと、祈るばかりの心境になっている。と、その時閃いた。 「燁子さんにお迎えしていただいたらどうですか」  祥吾の姉の燁子は三角に嫁いでいる。 「お嬢か……そうだな。坊ちゃんも呼んで二人で出迎えてもらえばいいな。お前から三角に頼んでおけ」  広沢から三角に頼むまでもなく、燁子は自分が出迎える気でいた。何より弟が本気になっている男に会ってみたいと言う好奇心があった。  斯くして鬼神一家は結人を出迎える準備万端整えて、後は待つばかりであった。  一方の結人は、祥吾の誘いに応じたものの余り気乗りはしない気分でいる。  未だ本当の生業は知らないが、祥吾が大切な跡取り息子との認識はある。そんな人の実家に行っていいのだろうか……。男が恋人なんて、どう思われるのか……。  祥吾は自分のことを恋人と思っている。それは分かる。自分は? 体の関係もあるから恋人なのか? 今一つ確信は持てないでいる。  断ろうと思うと、なんか押し切られる。ここまで来たら思い切るしかない。そう思って当日を迎えた。  恋人の実家に行くというよりも、友人の実家へ行く。そう思おうと半ば開き直ったのだ。  手ぶらで行くのも気が引けるので手土産も用意した。  ―――― 「なんだ、緊張しているのか?」 「そら緊張するよ」 「ははっ、大丈夫だ。リラックスしろ」  他人事だと思ってと、責めたくなる。祥吾は気楽だろうけど、こっちは、そうはいかないよと結人は思う。  祥吾は、固い表情の結人の手を握る。 「心配するな。親父も、姉貴もお前に会えるのを楽しみに待っているんだ」 「だから、それが緊張するんだって!」 「ただの爺さんと、おばさんだから構えることはない。それに前にも話したけど五歳の甥っ子も来てる。まあ、ちょっと賑やかになるが、お前にはいいだろう」  五歳か……まあ、そうだな適当にその子と遊んで早々と帰ろうと結人は思った。  車が住宅街を進むと塀に囲まれた一際大きな家が見えてくる。家というよりも要塞のようだ。  まさかここじゃないよね――と、結人が思っていると車が止まる。すると門が自動で開き、車が入り、玄関の車寄せで止まる。  結人はその豪華さと大きさに圧倒されて息を呑む。  祥吾自身社長で、親は親会社の会長と認識していたから、ある程度の豪華さは想像していたが、想像以上なのだ。車から降りたくない、このまま帰りたいと思う。  先に降りた祥吾が、結人へと手を差しだし降りるように促す。  ここで降りないわけにはいかないか……。結人は恐る恐る車の外へ足を踏み出す。 「ようこそいらっしゃいませ。お待ちしておりましたわよ」  結人が降りると三十前後の女性からにこやかに声を掛けられる。 「あっ、こ、こんにちは」 「はじめまして、わたくし祥吾の姉の燁子です。よろしくね」 「さっ、榊結人と申します。よろしくお願いします」  お辞儀しながらそう言って頭を上げた結人は、えっと固まった。玄関脇に黒服の男たちが並んでいるのが目に入ったからだ。  こっ、この人たち何っ? 結人がそう思った時、小さな男の子がたたたっと駆け寄ってきて結人に抱きついた。  えっ、こっ、この子何っ?

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