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第13話 可愛い男の子
「おにいちゃん、きれいだね」
結人に駆け寄り抱きついた男の子の第一声。
「もーっ、玲、そんな急に抱きついたら結人さんがびっくりするでしょう」
「だって、きれいだし。……いいにおい」
男の子はぎゅっと抱きつき、鼻をクンクンさせる。
「ごめんなさいね。わたくしの息子で玲です」
ああ、この子が甥っ子か。
「こんにちは玲くん。いくつかな?」
「ごさいだよ」
「玲、お前が抱きついていると結人が中へ入れないだろ」
祥吾に言われると玲は、結人から離れると手を掴んで玄関の中へと引っ張っていく。
「おにいちゃん、こっちだよ」
玲に引っ張られ、黒服の男たちが頭を下げる前を通り玄関の中へ入った結人は再び固まる。
玄関の正面に『鬼神一家』と書かれた看板を目にしたからだ。
おっ、鬼神一家……こっ、これって……。
その時、今までの違和感、疑問の全てが結人の頭の中でつながる。
やっ、やくざ! ここ、やくざの本宅だよ!
しょっ、祥吾さんてやくざの跡取り息子だったんだ!
どっ、どうしよう。えらい所に来てしまった……。
直ぐに回れ右して帰りたい。
ああっ、なんで今まで気がつかなかったんだ。自分を呪いたくなる。うかつだった。
気が付いてみれば、納得できることばかりじゃないか。
頭の中ぐるぐる状態の結人は、玲に手を引かれる。
我に返った結人が玲を見ると、見上げる玲と目が合いニコッと微笑まれる。
この子は可愛いなあ。なんでやくざの本宅にこんな可愛い子がいるの? ああ、跡取り息子の甥っ子だからかあ。って、この子も将来はやくざ? いやいや、今はそんなこと考えている場合じゃない。
「さあ、お上がり下さい。客間で父も待っておりますわよ。さあ、どうぞ」
燁子に言われ、祥吾にも背中を押される。
とてもじゃないがこれでは帰れない。結人はドナドナになった気分だ。
僕はどこに連れて行かれるのだ。僕の命、今日まで……。
燁子の先導で、玲に手を引かれ、祥吾には背に手を当てられて、廊下を進む。
物凄く大きい家。マンション暮らしの結人には別世界だ。
中庭を横目に進んだ先で燁子が止まり、襖の前で声かけると、襖が開き、三十代くらいの男性が頭を下げる。
「どうぞ、こちらに」
その男性に促され中へ入ると、初老の和服姿の男性が奥に座っている。結人はその男性の正面の席へと案内される。
「早速玲が懐いておるようじゃな」
すると、うんと言いながら玲が抱きつく。
「ははっ、よほど好きになったと見える。ああ、申し遅れた。わしが祥吾の父、鬼神東吾じゃ」
決して大きくない、痩身の初老の男性。なのに凄い威圧感を感じる。何と言うか圧倒的なカリスマ性ともいうものを感じる。
「あっ、さっ、榊結人です。今日はお邪魔します。あの、これはつまらないものですが皆さまで」
何とかそれだけ言った結人は、手土産に持参した羊羹を差し出す。
「ほーっ若いのに気配りを。虎屋じゃな、ここの羊羹は大好物じゃ。しかし、今後、気遣いは無用にしてくれ」
良かった、虎屋の羊羹にして。亡き母が、挨拶には虎屋の羊羹なら間違いないと言っていたのを覚えていたのが幸いした。
あーっ、でも帰りたい。この人。瘦身だけどやくざの親分なんだよな。さすが威圧感半端ないよ。もう耐えられない。僕のメンタル限界だよ。
東吾には結人の緊張は手に取るようにして分かる。極道の本宅へ来て緊張しない一般人はいない。
余り緊張させると可哀想とは思うが、好奇心は抑えられない。
これが息子の惚れた男。男ながら息子を初めて本気にさせた。確かに魅力的な男だ。女に負けないきれいさと官能を持っている。これは息子が夢中になるのも分かる。
息子の者でなければ自分も欲しいと望むかもしれない。
この世界、男色は珍しくない。というか両刀使いが多いのだ。それを武器に上手く立ち回っている者もいる。東吾自身、若い頃から嗜み、今も可愛がっている者がいる。
東吾にとっての懸念は、結人は男を夢中にさせる魅力があるが、本人には全く自覚が無いこと。
無自覚に魅力を振りまく者ほど厄介な者はいない。先ずは自覚させ、そして一家でも全面的に守ってやらねばならない。
「わしと面と向かっていればあんたも気を使うだろう。向こうの部屋で若い者同士寛ぐといい」
結人は正直助かったと思う。正座はなれないし、足の痺れも心配だ。
東吾は立ち上がり、結人の肩をぽんと触れると、男を従えて去っていく。去り際に男が結人に深々と頭を下げる。
「パパもじいちゃんといった」
「パパ?」
玲が頷く。結人は祥吾に視線で尋ねる。
「ああ、紹介すればよかったな。こいつの父親、まあ、俺の義兄で、親父の秘書的立場だ。後で紹介するよ」
ああ、なるほどお姉さんの夫ってわけか。やくざも家内工業って感じなんだな。
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