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第19話 再会

 司法試験最終日、四日間の試験が終わり、精根尽き果てた結人が試験会場から出てくる。  祥吾は結人の姿を見つけるとにこっと笑い手を挙げると、結人は驚いた。まさか祥吾が試験会場の出待ちをしているとは思わなかったからだ。  結人は戸惑いながらも小走りに祥吾の許へ行くと、車に乗るように促される。 「驚いた……まさか今日来ているとは思わなかった」 「一刻も早くお前の顔が見たかったからな。さすがに疲れた顔しているな」 「うん、へとへとに疲れている。ごめん、今日は帰って寝たい」 「ああ、そう思って今日はマンションまで送っていくだけだ。電車で帰るよりお前も楽だろう」  確かにそうだ。歩いて駅まで行き、そして電車に揺られ、再び駅から歩いて自宅まで帰る。車だと座っているだけで着く。疲れた結人には正直助かる。  頷いてシートに体を預けた結人の手を、祥吾は優しく握る。結人はびっくと反応するが抵抗はしない。  手に祥吾の温もりを感じる。疲れ切った結人はそのまま眠ってしまいたい気分になる。  手を繋げたまま二人は無言だった。五ヶ月ぶりの再会。話したいことは沢山あるだろうが、今はこの手の繋がりだけでいい。  二人とも同じ思い。  二十分ほどで結人のマンションに到着する。 「ありがとう。疲れてたから助かったよ」  頷いた祥吾が、助手席に座る広沢から渡された包みを差し出す。 「うちのが作った弁当だ。夕飯これからだろう。今日はこれ食って早く寝ろ」 「えっ、弁当! あっ、ありがとう」  結人は弁当の包みを持って車から降りる。運転手と広沢に会釈して、そして祥吾へ頭を下げるとマンションへと入っていく。 「さすがに疲れてたな」 「朝から夕方までの試験がみっちり四日間ですからね。大変でしたでしょう」 「ああ、弁護士になるのも楽じゃないな」 「だからこそ結人さんが、うちの顧問弁護士になってもらえればありがたいですよね」  ああ、そうだ。これこそ一石二鳥だ。おそらく結人が思っている以上に、鬼神にとって結人の価値は大きいのだ。絶対に離すわけにはいかない。祥吾は改めて思うのだった。  マンションの部屋に入り、リビングルームのソファーに結人はドサッと腰を下ろし、目を閉じる。  水曜から今日の日曜まで、金曜の中日を挟んでみっちり四日間の試験。さすがに疲れた。  やり切ったと達成感はある。多分、合格は間違いないとは思う。問題は合格順位。まあ、それは今考えても仕方ない。潔く結果を待つばかり。  しばらく閉じていた目を開けると、祥吾から渡された弁当が目に入る。  今日はさっさと帰って寝ることしか考えてなかった。弁当をもらわなかったら、何も食べないか、食べても買い置きのレトルトカレーだったろう。  祥吾の心遣いはありがたい。ここまで、ただ送ってくれたことも含めて。  まさか今日来ているとは思わなかった。来たということは祥吾の気持ちに変わりはないのか……。  冷めていたら、わざわざ弁当まで持ってこないだろう。多分だけど。  自分の気持ちは……。  今日試験が終わるまで、試験のことしか頭になかった。  試験が終わった今は……。  だめだ、今は頭が働かない。完全に疲れ切って、思考することを拒否している。  結人は、祥吾に握られた掌を見る。懐かしいような温もりに安堵した。  今はその思いだけでいい。  空腹を感じないので、結人は先にシャワーを浴びることにする。  浴室から出てくると、再び弁当が目に入る。せっかくだから食べよう。  包みを開けると、凄く美味しそうだ。無かった食欲がわいてくるのを感じる。  実際食べ始めると、本当に美味しい。市販の弁当とは違った手作り感のある弁当。  中高生の時は毎日母親が弁当を作ってくれた。母の仕事は忙しく、帰りが遅くなるのは日常だったが、それでも必ず朝から弁当と朝食を用意してくれた。  母が作ってくれた弁当とは違う。でも手作りの弁当に母を思い出す。  母が亡くなった後、ここで食べる食事はいつも味気ないものになった。しかし今は違う。楽しいとは違うが、味気なさはない。  結人は弁当を食べ終わると、お腹と心が同時に満たされる。  お礼は伝えておこうと思う。 『弁当美味しかった。ありがとう。寝るには早い時間だけど今日は寝ます。おやすみなさい』  メールで送信する。  速攻で返信が来る。 『美味かったなら良かった。今日はゆっくり寝ろ。おやすみ』  結人がベッドへ体を横たえるのと眠りに落ちるのはほぼ同時だった。  夢も見ずに深く眠った。  スマホを片手に祥吾は、良かったと思う。  五ヶ月ぶりの再会。食事に連れて行くか迷ったのだ。自分がそうしたいのは山々。  だが、多分結人は疲れているだろう。中日を挟むと述べ五日の試験だったのだ。直ぐに帰って寝たいだろうとは想像できる。  本格的に会うのは、後日結人の元気が快復してからでいい。むしろそれが最善。  しかし、試験後腹は減ってるだろう。そう思って、一家の厨房を取り仕切る相川に弁当を作ってもらった。  本当は今までも差し入れしたいと思った。一人暮らしの結人が何を食べているのか心配だったからだ。しかし、全てを遮断するという約束があるから我慢した。だけど、今日はいいだろう。  結人に好感を持っている相川は、張り切って作ってくれた。自分が見ても美味そうな弁当に満足した。  まさか結人からメールが来るとは思わなかった。本当に美味かったのだろうと思うと心が凪ぐ。  結人が喜んでくれた。自分の判断が間違っていなかったことに祥吾は安堵する。 『おやすみ、今日はしっかりと寝ろよ』  そう心の中で声掛けた。

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