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第20話 再びその肌の温もりを感じて

「今日は元気そうだな」  結人を車に乗せた祥吾は、元気そうな結人に安堵する。  先日は結人の疲れを思い、送るだけにした。それから五日過ぎ、今日は食事に誘ったのだ。 「うん、毎晩ぐっすり眠っているからね。試験から解放されてほっとしたからね」 「そうか、頑張ったからな。で、結果はどんな感じだ?」 「多分合格は大丈夫だと思う。後は順位かな、それは蓋を開けてみないと分からない」 「合格すれば順位なんてどうでも良くないか」 「そういうわけにもいかないよ、後々を考えるとね」 「格ってやつか」 「そうだね。法曹の世界にいる限り一生付いてくるから」  まあな、どの世界にも格はある。無論極道の世界にも格はある。それに面子だのなんだのと、色々めんどくさいこともある。 「中野の女将が、今日お前連れていくって言ったら嬉しそうだったぞ。うちの連中もだが、お前は俺の周りの人間に受けがいいよな」 「へーっそうなんだ。なんでだろう? でも僕もあそこの料理大好きだから嬉しいな」  結人は全く知らないが、今まで結人に会った祥吾の関係者で結人に悪感情を持った者は皆無。皆、好印象を持つのだ。  それは結人の生まれ持った性質が、意外と極道の世界に合うのかもしれない。それは後に結人が極道の世界に馴染むため、大いに役立つことになる。  祥吾が言った通り、中野では女将の大歓迎の出迎えを受ける。結人も女将の笑顔に心が凪ぐのを感じる。 「お久しぶりですがお元気そうで何よりでございます。ところで、土用の丑の日に鰻は食べられましたか?」 「俺は食ったが、結人は?」 「食べてない。土用の丑の日っていつだったのかな? 全然知らなかった」 「試験中だったからな。それどころじゃなかったんだろ」 「でしたら今日は締めに小ぶりの鰻丼をお出ししましょうか?」 「嬉しいな、鰻大好きだから。祥吾さんはいいの?」 「俺も好きだからいいぞ」 「では今晩は鰻を使ったお料理も少しお出ししましょうね」 「こちら鰻ざくと言いまして、鰻ときゅうりの酢の物です。そしてう巻です。だし巻きに鰻がはいっておりますの」 「へえーっ、どちらも初めてです。美味しそう」  結人は先ず鰻ざくを口に入れる。 「あっ、美味しい! さっぱりしてる。きゅうりと合うんですね」  笑顔の女将と祥吾が見守るなか、続いてう巻を口にする。 「これも美味しい! 僕鰻は鰻丼しか食べたことなかったから、こんなのも美味しいですね」 「こういうのは大人の料理だからな」 「はっ、どうせ僕は学生だから」  口をとがらせる結人。 「すねるなよ」と、言いながらもすねる結人も可愛いと思い、祥吾の目尻は下がる。  そんな二人の様子を微笑ましいと女将は思う。  祥吾が一家の人間以外の人と来店するのは、結人が初めて。大事な人と聞いていたのでてっきり女性だと思っていたが、男性だったのには驚いたが、結人は好印象だった。  結人は男性だが、きれいだと思う。そして可愛らしさも感じる雰囲気に、若様の好みはこういう人だったのかと思った。  祥吾の気持ちも本気らしいとも思う。会長の意向は気にもなるが、外野は見守るだけと思っている。祥吾がここへ連れて来るなら歓迎したい。それが女将の率直な思いだ。  締めに出された小ぶりな鰻丼。小ぶりだがそれまで散々色々食べているので、結人は十分満足する。 「美味しかった。もう何も入らない」 「そうか、なら良かった。じゃあ出るか。あっ、来週土曜は迎えに来るからな。覚えとけよ」 「えっ、やっぱり僕、行くの?」 「さっき言っただろう。親父が会いたいって。ついでに玲も」  玲くんと会うのはいい。問題は親父さん。話って……僕は嫌だな。緊張しかない。なんか、圧というか威圧感を感じた。まあ、極道の会長だからな……。 「まだ、会わなくても……」 「何言ってるんだ。この五ヶ月で答えをだしとけってお前が言ったんだろう。だから、親父にも根回しもした。俺は約束を守ったぞ」  それを言われれば、結人は何も言えない。まさか祥吾の気持ちが変わらないとは……嬉しいと思う自分もいるが、信じきれない思いもある。  親父さんの話も、祥吾は楽観しているようだけど、別れを促されるかもしれない。  その時はその時点で、自分も別れを受け入れればいい。 「うん、分かった。そのつもりでいる」 「ああ、構えることはないし気楽にこればいい。手土産とかもいらないからな」  女将のにこやかな笑顔に見送られ結人は店を出て、待っていた車に乗り込む。  当然マンションまで送ってもらえると思っていた。ところが、途中で違和感を覚える。方向が違うのだ。  違和感が膨れ上がったと同時に、車は祥吾のマンションに止まる。  えっ、どうして? このマンションは知っている。来たこともある。  初めてホテルで抱かれた後、このマンションで何度か抱かれた。忘れるはずもない。  つまり、祥吾は今晩自分を抱こうとしている。  結人は激しく動揺する。そんな心づもりをしていない。

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