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第22話 再び鬼神一家の本宅へ

 結人は気が進まなかったが、祥吾の強引さに再び鬼神一家の本宅へ訪れることに決まってしまった。  今まさに要塞のような塀が見えてきたが、心の踏ん切りは付かない。  祥吾は、結人の表情の硬さは緊張によるものと思う。 「緊張しなくても大丈夫だ。玲も来ている」  玲? ああ甥っ子かぁ、あの子は可愛かったなぁと、思っていると車は門の中へと入る。  結人の体は緊張と戸惑いで益々硬くなる。  ああー降りたくない……このまま帰りたいと思ったが、先に降りた祥吾から手を差し伸べられ、降りるように促される。  仕方なく車から降り立つと、たたたっと走り寄った玲が抱きつく。 「おにいちゃんまってたよ」 「あっと、えっと玲くん……」 「もーっ玲は、急に抱きついたら結人さんがびっくりするでしょう。ごめんなさいね、この子待ちわびてたもんだから」  なんか既視感がある。最初に来た時も抱きつかれたような……。 「お久しぶりですね、さあどうぞお入りになって」 「あ、はい、お邪魔します」 「おにいちゃんいいにおい」  玲が抱きついたまま言う。  なんかこの前も言われたような、何だろう? 香水つけてるわけじゃないし、まあ、臭くはないと思うけど、いい匂い? さっぱり分からない。 「さあ玲、抱きついてないで結人さんを案内して差し上げて」 「うん、こっちだよ」  満面の笑顔の玲に手を引かれる。が、最初の時と同じように居並ぶ黒服の男たちの姿に結人の動きはぎこちない。  いっせいに頭を下げているいかつい男たちの前を通るのは、胃が痛くなる。別にこんな並んで出迎えなくてもいいのに……ほんと勘弁して欲しい。  助けを求めるように傍らの祥吾を見ると、ただ頷かれた。祥吾にとっては当たり前の事なんだろう。  もーっ、全く通じてない。少しは僕の苦境を理解して欲しい。 「おにいちゃんここだよ」  玲に通された部屋には見覚えがある。最初に来た時、お茶菓子を出された部屋だ。今日、会長はいないのかな? 話があるってことだったけど。でも、いないならそのほうがいい。  あの圧のある人と話すのが、一番いやだ。いないうちにさっさと帰りたい。 「せっかく来ていただいたのに、父は急な来客の応対中ですの。帰られたら顔を出しますから、ここでゆっくりしてくださいね」 「あの、お客様なら、僕が帰りますが」  これは直ぐ帰れるかもと、一縷の望みをかけて言う。 「まあ、とんでもないわ、あなたは大切なお客様なんだから」  即座に結人の望みは儚く消え去る。 「お客って誰?」 「川上組長。里香さんも一緒」 「げーっ、マジか。俺いないって言ってくれた?」 「うん、実際いなかったからね」 「帰って来たって内緒だぞ」  心底嫌そうな祥吾に、燁子は苦笑気味に応じる。  結人は何かと話しかける玲の相手で、祥吾と燁子の会話ははっきりと聞いていなかった。  その時だ。何やら部屋の外がざわめいたと思ったら部屋の戸がいきなり開き若い女性が入って来る。 「あらっ、祥吾帰ってたんじゃない」  若い女性の後ろにはいかつい男が何人もいる。皆一様に困り顔だ。  祥吾の顔が見たことも無い苦い表情になる。 「ねえ、出かけましょう。パパもそうするがいいって言ってるから」 「俺は客の対応中だ」    この人なんだろう? まさか祥吾さんの彼女? 自分は帰った方がいい……と思っていると玲がぎゅっと抱きついてくる。 「客ってこの人」  女、川上組長の娘の里香が結人を指さす。その目は憎々し気だ。  結人は蛇に睨まれたようで、気持ちが怯む。すると、玲が庇うようにさらにぎゅっと抱きつく。 「そうだ、俺の大事な客だ。だからあんたの相手は出来ない」  祥吾にきっぱり言われて里香の顔がゆがむ。 「里香さんごめんなさいね。この方前々から約束していたから」  燁子がとりなすように言うと、里香はもう一度忌々し気に結人を睨むと、ぷいっと部屋を出て行く。 「あっ、あの……僕、帰ったほうが……」 「何言ってるんだ。今来たばっかりだろ。お前は気にするな。あっちが急に来たんだ。それに俺は、はなからあいつの相手をする気はない」  祥吾が言う間中、玲が結人の頭を撫でる。  何か、こんな幼い子に労わられているようで、妙な気持ちになる。 「ほらっ、玲も結人にはもっといて欲しいよな」 「うん、おにいちゃんきょうはおとまりする?」 「いや、お泊りはしないよ」 「どうして? おふとんならいっぱいあるよ。ねっ」  玲が燁子と祥吾に同意を求めると、即座に祥吾が反応する。 「おおっ、客間に客布団もある。泊まっていいぞ」  いやいや、話が変な方向に進んでいる。今、帰らないからって、なんで泊るって話になる。 「それは無理って、今日は帰らないと」 「そうね、結人さんのご都合もあるし、あんまり無理を言うと」  焦る結人の様子を見かねた燁子が助け舟をだす。 「そうか……」 「うーん……」  祥吾と玲が同時に、強請る視線を結人に送るが、結人は視線を逸らす。  なんだこの二人、よく似てる。やっぱり血が繋がってるよな。  よく見ると顔も似ている。親子と言っても違和感はない。まあ、叔父と甥だから似てるのも不思議ではないか。  結局結人は、前回と同じく夕食を食べてから帰ると決まる。  泊らないなら、せめて夕食は食べて行けと、強引な叔父甥コンビに押し切られた形だ。 「川上組長ようやく帰ったわ。あの人長尻だから」  なんだかんだ三人でわちゃわちゃして過ごしていると、燁子が報告しにくる。 「やっと帰ったか。組長はまだいいが、あの女だけはマジ勘弁して欲しいよ」 「お父さんが断りを入れたんだけどね」 「それでも来るって図々しいんだよ」  玲の相手をしながら断片的に入る祥吾と燁子の会話。なんとなく、分かったような分からないような……。  そこへ、祥吾の父、鬼神一家の会長が顔をだす。  顔を見た途端、結人は緊張する。  なんと言っても極道の会長だ。 「せっかく来たのにすまんかったな」 「いいえ、とんでもないです」 「もう夕飯時だしな、話は今度にしよう。ただ一言。わしはあんたを歓迎しとるぞ。話も結論はそれだからな。話すまでもないとは言える。わしが歓迎するということは、鬼神一家が歓迎すると言うことじゃ」  えっと、歓迎するとは……結人には予想外の言葉で、言葉が返せない。 「これからは、いつでも来てくれ」 「ねえじいちゃん、おにいちゃんにおとまりもしてほしいね」 「ああ、そうだな。客間もあるからな」  はっ、泊まるって、またさっきの話の蒸し返し。しかも会長まで……。 「風呂もな、客用のが別にあるからな、ゆっくり入れるぞ」  すかさず祥吾も話に乗って来る。 「わあーっ、おにいちゃんおふろいっしょにはいろ」  えっ、風呂一緒に! どんどん話が結人の意図しない方向に進んでいくと思ったら祥吾が追い打ちをかける。 「お前と一緒には入らない。結人が一緒に入るのは俺だけだ」  はあーっ、な、何言ってるの! 「入らない、誰とも入りません! 今日はとにかく夕飯ご馳走になったら帰ります」 「まあ、今日のところはな」  あたふたする結人に、祥吾が妥協するように言う。  今日のところはって、なんなの!? 大体こんなところの風呂なんて入れないよ。ましてや一緒になんて、入るわけない。  だけど、そもそも客用の風呂があるって、やっぱり別世界だなと思った。  夕食を叔父甥コンビと燁子と一緒に済ませた後、結人は本宅を辞去する。  会長に挨拶すると、「また来てくれ歓迎する」と言われ、嬉しさもあるが戸惑いもある結人は、深く頭を下げることで応えた。  結人が車に乗り込む時、玲は半泣きだった。抱きついて離れないのを、父親の三角に引きはがすように抱き上げられる。  ここまで懐かれると、結人も玲への情が湧き、心が傷む。 「玲くん、ごめんね。今日は帰るね」 「お、おにいちゃん、ひぐっ……ま、またきてね」  結人は頷きながら、玲の頭を撫でてやる。 「また来るね」  玲が頷いたので、結人はにこっと笑いかけて、そして車に乗り込んだ。  『また来るね』嘘はつきたくないと、前回は言えなかった言葉が自然と口に出たが、結人は自覚ない。  祥吾はしっかりと心に留めた。  

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