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第23話 向けられた悪意
川上里香は憤懣やる方ない思いでいる。
なんだあの男は!? 大事な客!? 自分の誘いを断ってでも相手をするほどの者かと思うのだ。
里香にとって祥吾は二歳年上の幼馴染。ずっと思ってきたし、親も認めている仲。里香はそう思っている。
祥吾が女と遊んでいるのは薄々知っているが、この世界の男には当然のこと、男の甲斐性だ。いずれは自分と落ち着く、そう思ってきた。
規模は鬼神一家とは格段に小さいが、川上組も戦前からの極道。その娘である自分こそが鬼神一家の姐には相応しいと思っているのだ。
父親の川上組長も娘が祥吾の嫁になれば、先細るばかりの川上組には幸い。鬼神一家の強力な後ろ盾が得られるからだ。
しかし、それは勝手な思い込み。祥吾にその気は全くなく、まともに相手をしたことは一度もない。
鬼神一家の会長も、川上組からの申し出を断ってきた。ただ、戦前の初代の頃からの付き合いがあるから、交流は続けてきた。それだけのことなのだ。
今回何度目かの申し込みを断られた。粘った挙句得られたのは、祥吾には決まった相手がいるからとの答えだった。さすがに、父親の川上組長は、里香が嫁になれる目はないと判断した。
しかし、里香は現実が全く見えない。否、見ていないのだ。全てを自分に都合よく思い込むのだった。
「お嬢、分かりやしたぜ」
里香は、護衛兼世話係の大村と福留に結人の調査を命じていた。
「榊結人ってやつで、なんと東大生だと」
「はあーっ、なんで東大生が祥吾の側にいるんだよ」
「そこまでは分からんが、鬼神の若のこれって」
大村が小指を立てる。
「はあーっ、男がこれって冗談じゃないぞ、馬鹿野郎がっ」
里香の地はこれだった。祥吾の前では可愛らしく装い、媚びて見せるが裏はこれだった。祥吾はその真の姿を見切っていた。だから、全く相手にしないのだった。生理的に受け付けないと言える。
里香の憤懣は頂点に達する。年齢的にもそろそろ結婚したい。それが、ぽっと現れたやつに取られてたまるか。しかも男に、女の面目丸つぶれ、そう思った。祥吾に対する女の面目など最初から無かったのに。
「さらってこい、身の程わきまえさせてやる」
「さらうんですか……」
里香は怒りの形相で頷く。
大村と福留は、顔を見合わせて頷き合った。素人一人さらうのは簡単だ。この時は、そう軽く考えたのだ。
――――
今日の授業は二時限目からなので、朝はゆっくりだ。
結人はいつものように赤門をくぐる。法学部の教室へ向かう途中、いきなり二人の男に挟まれる。一人はナイフを持っている。
「騒ぐな、声を出したら刺す」
結人は驚きに声も出せない。そして、そのまま裏門から大学を出ると、待機していた車に乗せられる。
何! この人たち何者?
結人には全く状況がつかめない。
どれくらい走ったのか、車は地下の駐車場へと入り、そこで降ろされる。そして、なにやらいかがわしい店に連れ込まれる。
結人の不安は益々高まる。祥吾へと助けを求めたい。
しかし、スマホは車に乗せられて直ぐに取り上げられた。
連れ込まれた部屋には、若い女がいた。見覚えがある。蛇のような目つきの女。
「あんた、東大生ってね。東大生なら真面目に勉強してればいいじゃん。人の男に手え出すんじゃないよっ!」
そう言うなり、女、里香は結人の顔をびんたし、唾を吐きつける。
「祥吾の嫁はあたしがなるんだよ! 男がしゃしゃってくんなよ! まあ、身の程わきまえさせてやるよ」
里香は、結人を連れてきた大村と福留に顎で示す。
「男たぶらかす奴は、女の代わりにしてやんな。たっぷり可愛がってやるんだ。二度と人の男に手え出せないようにな。お前らが済んだら外の奴らにもやらせてやんな」
えっ! 犯される!? 結人は恐怖に逃げようとしたが、二人の男に腕を掴まれ、引きずり倒される。そして、来ている長袖シャツを乱暴に引き裂かれ、下着を捲し上げられる。
「鬼神の若をたぶらかすだけあって、きれいな肌してんな。あんたなら男でも抱けるぞ」
舌なめずりして近寄よる男。
結人は声にならない声で、祥吾に助けを求める。
祥吾さん、助けて!
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