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第26話 極道の本質
結人は燁子からお茶に誘われる。
正直気乗りはしないが、燁子の強引さに応じることとなった。なんかあの叔父甥コンビに似ていると思う。
叔父甥コンビも似ていると思ったが、二人の姉で母なのだ。燁子が似ているのは当然であると苦笑する思いだ。
「ごめんね、急に呼び出したりして」
「ああ、いいえ。でも、こんな時間に玲くんは大丈夫なんですか?」
「本宅に行ってるから大丈夫。だけど、あなたと二人で会ったって知ったら、大騒ぎになるから内緒ね。あなたの事大好きだから」
「どうしてそんなに好かれているのかな、嬉しいけど、未だに不思議です」
「あなたに魅力があるからに決まってるじゃない」
「そうかな……」
「ねえ、私たちってどういう関係に見えるかな?」
「どういうって……」
「マダムと若いつばめ。あなたみたいな可愛い子がつばめならさぞ楽しいでしょうね」
妖艶に笑う燁子、結人はなんて返したらいいのか分からずドキドキする。
「つ、つばめって……僕は」
「つばめはともかく、可愛い弟は大歓迎よ」
弟は祥吾がいるし、可愛い息子もいるじゃないかと結人は思う。しかし、なんだか翻弄されている感じがする。
その時、物静かな三角の顔が浮かぶ。あの人、この人の夫で、叔父甥コンビの義兄で父。あの物静かな人がどう対応しているのだろうか、さぞ毎日大変ではと、同情心を持つ。だが、明日は我が身とは、全く思わないのだった。
「この間のことは、本当にごめんなさいね」
燁子が真面目な表情になり、話の本題を切り出す。結人にもそれが今日の本題であることは分かっていた。だから燁子の誘いに気乗りしなかった。
「祥吾の甘さが招いたことで、父もしっかり叱ってたわ。わたしも姉として本当に申し訳なく思っているの」
「いや、でも祥吾さんが悪いわけじゃなく……」
「大切な人を守れなかったのはあの子の責任。あなたが怖い思いをして、びんたもされたんでしょう。いくら女からって言っても衝撃的だったでしょ」
まあ、確かに人からびんたされたのは初めてでかなりの衝撃だった。
「祥吾も反省して、二度と無いようにと考えている。川上組とは絶縁したしね」
「そっ、そうなんですか」
「あそことは古い付き合いだったけど、あんなチンピラまがいのことするならうちとは違う。うちはチンピラとは一線を画す正統な極道だから」
結人は複雑な表情で聞いている。
「あなたには、違いが分からないかな?」
「それはなんとなく分かるっていうか……」
確かに祥吾に付いている人たちや、本宅にいた人たちと、川上組の人とは印象が全く違った。
「何か、不安がある? 良かったら私に話してくれないかな」
燁子の表情は真剣だ。さっきの面白がったような表情と全く違う。本当に自分のことを心配していると思える。
結人は、自分の正直な気持ちを話してみる気持ちになる。
「あの時祥吾さんが助けてくれたのは本当に危機一髪で嬉しかったです。ただあの時の、あんな怒った祥吾さん初めて見て……怖かった。僕にはそっちのほうが衝撃だったというか……」
燁子には結人の言わんとすることが分かるように思った。結人は今まで、祥吾の極道としての顔を知らなかったのだ。それを見せられた衝撃。
しかし、祥吾は極道。本来の顔が極道としてのものだ。それを結人には分かって欲しい、理解したうえで祥吾の側にいて欲しい。
「つまり、祥吾の極道としての顔を見たから、そこに戸惑っている」
「うん……そうですね」
「祥吾が極道なのは事実だし、今回のようなことがあればその本質がむき出しになるのは当然だから、あなたには分かって欲しいとしか言えないけど」
「祥吾さんって若様なんですよね」
「若様って、まあ跡目だから皆、若って呼ぶわね」
「その跡目に僕は相応しくないって思うし……前々から思ってはいたけど、今回実感したっていうか……」
結人は運ばれてきたコーヒーに全く手を付けてない。それだけ苦悩が深いのだろうと燁子は思う。
「少しあなたの耳に痛いことを言ってもいいかしら」
結人は顔を上げ頷いた。
「あなたが色々と思い悩む気持ちも分かるけど、相応しくないって言うのは、私には言い訳のように感じる。ごめんね、はっきり言って。あなたの祥吾への思いがどうなのか、結局それが一番じゃない」
結人は少し見開いた目で燁子を見る。その結人に燁子は続ける。
「祥吾が激怒したのはあなたを思っているからだし、父が祥吾を叱ったのはあなたを認めているからよ。父が認めているって言う事は、鬼神一家が認めているってこと。勿論わたしもそう。後はあなたの気持ち次第じゃないかしら」
燁子の言葉に結人は、叩きのめされる思いになる。結局そうだ。自分がうだうだしているだけ。あの五ヶ月で祥吾はしっかり証明してみせた。なのに自分は、未だに迷っている。不甲斐ない男だと思う。そう、自分も男なのに。
燁子が結人の手を、両の手で包み込むようにする。
結人は亡き母を思い出す。まだ自分も幼く、若かった頃の母。よくこうして、自分の手を包み込んでくれたり、頬に優しく触れてくれた母の掌。
燁子が結人を見つめたまま頷く。結人も応えるように深く頷いた。
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