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第27話 結人の疑問と戸惑い
今日は燁子と会ってから初めて祥吾と会う。結人には絶対に解消せねばならない疑問がある。
「祥吾さん、助けに来てくれた時は、僕も動転してたから思わなかったけど、あとから考えるとどうしても疑問に思うんだけど」
「うん、なんだ?」
「どうして僕があそこにいるって分かったの?」
「そっ、それは直感っていうか……愛するお前の危機だから察知したんだ」
「そんな、作り事めいた話が信じられる?」
「いや、だから奇跡が起こったんだよ」
結人は祥吾を睨む。いくら何でもそれはない。世間知らずの自分でもおかしいと思う。
「正直に言ってくれないと僕は先に進めない」
「先に進めないって……」
結人は燁子と会ってから、祥吾と自分の問題は、あとは自分の覚悟だけとは思った。ただ、それにはこの疑問の解消は絶対に必要なこと。それを解消できないのなら、別れも仕方ない。そう結論したうえでの今晩の逢瀬だ。
「祥吾さんが正直に話してくれないなら、別れもある。だって信頼関係が崩れることになるから。僕たちの関係が今日で終わるのか、それとも続くのかは、それ次第だよ」
祥吾には思わぬ展開だ。
あの事件は最悪の結果は逃れられた。寸前で助けられて良かった。しかし今後は、絶対にあってはならない。そればかりを考えていた。
自分が助けられたことを、結人が疑問に思うとは……。
そこを付かれるのは痛い。GPSは内緒で付けているからだ。言えば、結人は絶対に許さないとの認識は祥吾にもある。
重苦しい沈黙が支配する。
結人は強い視線で祥吾を見つめ続ける。
祥吾には限界だった。
「すまん……お前にこっそりGPS付けている」
祥吾が絞り出すように告白する。
結人には想像していた答えだったが、改めて驚きの答えでもある。
「……やっぱり、それしかないと思った」
「お前の許可なく付けたのは謝る。ただ、今回の事件ではそのおかげで、お前を助けられたことも事実なんだ」
「それはそうかもしれないけど、こんなの付けて監視してるってことだよ、人権侵害だよ」
「だから、そこは謝る」
祥吾は結人に頭を下げる。
「どこに付けたの?」
「……財布」
結人は財布を確認すると、確かに付いている。全く気付かなかった。普通こんなの気付かないよと思う。
「これ外すよ」
「いや、ちょっと待って」
「待てって、何っ」
「現状、お前を守るためには必要っていうか」
結人は祥吾を睨む。初めて見る強い眼差しに、祥吾は怯みそうになる。結人の意外な一面を見たような思いを持つ。
「こんなの付けないと守れないの? 祥吾さんの世界ってそういう世界?」
「いや、ちょっと落ち着いて聞いてくれ。俺の世界だけでなく、今はそういう時代なんだ。玲もランドセルに付けている。何が起こるか分からんだろ」
「玲くん子供でしょ。燁子さんは?」
「姉貴はスマホで分かる。それにほぼ四六時中護衛が付いている」
それは事実だった。先日結人と会った時も、結人は気付いていないが、少し離れた席に護衛がいた。
「本当はお前にも護衛を付けたい。だが大学の中までは無理だろう。GPS付けてたら大学からでたら異変を察知できるだろ」
「護衛だの、GPSだの僕の世界では考えられないよ。極道の世界ってそんなに危険なの」
「危険っていうか……それだけ強固に守るってことなんだ。決して危険が多いとか……ほらっ要人にSPが付くだろ、それと同じようなもんだ」
いやいやだからそれが普通の世界ではない。
「俺は生まれた時からこの世界だから当たり前の事でも、お前が戸惑うのも理解できる。だが、分かってくれ、頼む。お前を守りたいんだ」
「僕の事は祥吾さんが守る。今後はこの前のようなこと無いようにするって、これも込みのことなの?」
「そうだな。お前のことは俺の命に代えても守りたい。その為にも、これを受け入れて欲しい。決してお前の行動を監視するってわけじゃない、守るためなんだ。頼む」
再び祥吾が頭を下げる。
これが祥吾の世界。燁子もそれが普通の感覚だから、この件に自分が違和感を抱くとは思ってもいないだろうと、先日の会話からも分かる。
祥吾への思いは自覚している。
先日の燁子の言葉は耳に痛かった。本質を付いていたからだ。後は、自分自身の覚悟だけと。
けれど、祥吾と共にいることを選んだなら、このことも受け入れねばならない。普通のこととして。
GPSに護衛。常に監視されているような世界だ。それが自分の身を守るためだとしても。
そもそも一般の世界に、そうして身を守る必要はない。それだけ特殊の世界なんだ。極道の世界は。
今更ながらとんでもない人と関わってしまった。
でも、別れは決断できない。結人にも、祥吾への思いがある。
これだけ自分を求めてくれる気持ちに絆されただけではない、結人の祥吾への思い。
それを自覚しているから思い悩む。
結局、別れるか、別れないかの二択。別れないなら、こう言う事も受け入れねばならない。結人だって、この間のようなことに巻きこまれるのは嫌だ。自分の身は守りたい。
結人は祥吾を見て、薄く悪い。苦笑いのようでもある。
祥吾はなんだ? というように結人を見つめる。その眼差しは澄んで濁りがない。
この人は僕よりもはるかに大人なのはずなのに、なんでこんな澄んだ眼をしているのだろう。
玲と同じような邪気のない眼差し。
自分はこの眼に惹かれたのかな……多分そう。
結人は自嘲気味に微笑む。苦みのある微笑み。
僕ってちょろいのかな、ちょろいよね。
結局のところ祥吾の思惑通りの結論。結人は自分のちょろさ加減にため息をつきたい気分だ。
いや、惚れたのが敗因かな、だから別れを選択できない……悔しいけど。
「僕を守るって、絶対に? 誓えるの?」
「ああ、誓って絶対だ。命かけて守る。お前は俺の命より大切だからな。俺に付いている者たちもだ。あいつらは俺を守るために付いている。いざとなったら命かけてもな。その俺の大切な存在がお前なんだ。だからお前を守るのが最優先なんだ。そこは安心してくれ。お前に危ない思いは絶対にさせない」
結人は頷いた。
男の本質は守られるよりも、守ることにある。
結人も男だ。男が守られるのか……その迷いと戸惑いは簡単には解消できない。しかし、今は受け入れるよりない。結人はそう思った。
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