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第29話 難問

「それは東京一択に決まってるだろ。あっ、立川もあるのか、立川は東京だろ。立川ならいいぞ。東京とどっちでもいい」 「勿論僕もそう思ってるけど、そういう人が多いからどうなるかはわかんないんだよ」  司法試験を合格した結人は、年明け三月から司法修習が始まる。翌年二月までの約一年間。問題はその場所。  集合研修は埼玉県の和光市なので東京からは近い。しかし実務研修は全国に振り分けられるのだ。何処で受けたいか希望を提出し、年明けに発表される流れなのだ。  東京および首都圏を希望する者が多いので、希望通りに決まるかは分からない。 「第六希望まで書けるなら、横浜とか東京に近い場所ばかりにすればいいだろ」 「首都圏や大都市からは第二希望までしか書けない。第三希望以下は地方都市からしか選べないんだよ」 「はあーっ、なんだそれ、どうにかならないのかよ。地方都市なんて論外だぞ」  祥吾には実務研修の八ヶ月間も結人を知らない地方へ行かせるなんて有り得ない事だ。それこそ護衛はどうするのだ。 「極道の強引さが通じない世界もあるんだよ」 「理不尽だな、第三希望以下はどうするんだ?」  理不尽ってこの人が言うのかと、苦笑するが、結人自身も地方に決まると困るのは確か。自宅から通える東京か立川が良い。 「書かない、以下は一任するにする。地方ならどこでも引越しが必要であんまり大差ないかと思うから。まあ、この件は運を天に任せるよ。だから一応祥吾さんも頭においててね」  祥吾はため息をつきながらも頷くよりほかない。 「なんか良からぬ事考えてない」 「良からぬ事ってなんだよ」 「良からぬ事は良からぬ事。悪い事だよ」 「はあーっ、お前、俺の事なんだって思ってるんだよ」 「前科があるからね」 「あれはお前の安全のためだろう。事実それで助かった。お前も納得しただろ」 「まあ、やくざの世界の片隅に触れたとは思ったけど」 「うちはやくざじゃないぞ! 極道だ」 「同じようなものでしょ」 「ちっ、違うぞ! お前それ、親父やうちの者たちの前で言うなよ」 「どう違うの?」 「やくざは反社組織だ。うちとは明確に違う。鬼神は正当な極道、法に反することはしない。それがうちの矜持だ」  それは確かに今までも言われた。祥吾が強調するならそうなんだろう。川上組の者達とは違うのも感じた。人間外見で判断できるのも事実としてある。 「分かったよ。とにかく変なことは考えずに、大人しく結果を待ってね」 「いつ分かるんだ?」 「年明け、一月半ばには決定通知がくるよ」 「はあーっ、一ヶ月以上もやきもきさせられるのか……あっ、正月はうちに来いよ」 「えっ、やだよ」 「やだじゃないぞ。お前正月一人だろ」 「そうだけど。正月早々緊張したくないよ」 「緊張することはない。姉貴や玲も来るからな。まったり過ごすと良い」  極道の本宅でまったり過ごせるとは思えない。 「まったりって……年始客も多いんじゃないの」 「表はそうだが、お前は奥にいればいい。奥は身内しか入らないから心配いらない」  そう言いながら結人を抱き寄せようとする祥吾。  それを押し返そうと結人が抗うと、祥吾は益々力を入れる。 「もーっ! ちょっと離してよっ」  抗いながら拳を振り上げると、祥吾の頬に当たった。いや、触れた。 「痛っ! 暴力は禁止だぞ」 「何が暴力だよっ。そんなの痛くも、痒くもないのに」  腹が立った結人は、今度は足で蹴りを入れる。無論、軽く当たっただけ。祥吾には何のダメージもない。 「おっ、今度は蹴りか。とんだ暴力彼氏だな」  からかわれているようで益々腹が立った結人は、拳でげしげし叩きながら、蹴りも入れる。本気で腹が立つので全力だ。  しかし祥吾には、拳で殴られても猫パンチより威力が無いし、蹴りは猫キック以下。なんだか猫にじゃれつかれている気分。  結人が必死な分、笑いもこみ上げる。  なんだ、この可愛い生き物は。まるでペットの小動物だ。  しばらく気が済むまでさせてやる。そして、がばっと抱きしめる。完全に抑え込んで、結人は身動きできない。 「ちょっ、ちょっと離してっ!」 「だめだ。お痛が過ぎる猫は躾が必要だ」 「何が猫だよっ! 離してっ!」 「おとなしくしろ。暴れるとお仕置きもするぞっ!」  抗う結人に祥吾は口付ける。貪るような激しいキス。  結人の抵抗がやみ、力が抜けてくる。祥吾は溢れる唾液を啜ってやる。  唇を開放された結人は祥吾を見上げる。その瞳は赤みを帯び潤んでいる。  祥吾は結人を軽々と抱き上げるとベッドへと運ぶ。 「じゃれつくお前も可愛いが、素直なお前はもっと可愛いぞ」  祥吾の術中にはまったようで悔しいが、体は祥吾の抱擁を求めている。  結人に覆いかぶさるように口付ける祥吾の背に抱きつく。  祥吾にも無論、結人の求めは分かっている。今晩この仕事用のマンションへ連れて来た時から、何が起こるかは分かっていた事。  結人の甘い口腔内を堪能しながら、その着ているものを脱がしていく。  白く透明感のある肌。  きれいだ。誰にも触れさせるのは勿論、見せたくもない。自分一人のもの。  雪原のような全身を指で、舌で愛撫していく。徐々に色付き、熱をおびていく。 「あっ、あん……」  結人は溜まらず喘ぎを漏らす。それがまた祥吾の情欲を滾らせる。 「結人、どうして欲しい」 「はっ、早く……」 「何がだ」 「もーっ焦らすなっ!」  拳でパンチする。 「ふっ、またお前は猫パンチか」  もっと焦らしてやりたいが自分の男も限界だ。結人を求めてそそり立つそれを開放したい。  結人の蕾を指で解していく。ゆっくり丁寧に、自分の男で傷つけるわけにはいかない。 「ここ、もういいか?」  頷きながら抱きついてくる結人。  祥吾は自信の昂りを結人の可愛い蕾にあてると、待ちわびていたように受け入れられていく。  もう何度目かのこの行為。結人は祥吾の形を覚えている。  最初こそ圧迫されるような苦しさを感じるが、受け入れてしまえば熱く、極上の心地よさをもたらす。それも結人は覚えている。 「ああんっ、あっ……」  祥吾は、結人の額に口付けると、動く。初めはゆっくりと、徐々に早く激しく。 「あんっ、あーっ……ああんっ」  結人の喘ぎが、甘く激しくなる。祥吾の動きの伴奏のように……。  汗を散らせながら激しく動く祥吾。結人を突き上げながら、最後の力を振り絞りながら極みに向かい、その精を放出する。結人も同時に放出させた。 「結人、愛している」  結人は祥吾の胸に顔を埋める。今一番安心できる場所。子猫が親猫の懐で眠るような安心感に包まれる。

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